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2009年07月03日

[ダニエル・ベルの『脱工業化社会』とJ.K.ガルブレイスの『新しい産業国家』]

ダニエル・ベルの『脱工業化社会』とJ.K.ガルブレイスの『新しい産業国家』

産業経済が発達して大規模化したテクノクラシー(技術官僚支配)では、従来の『資本・生産手段などのハード部門』よりも『科学技術・専門知識などソフト部門』の重要性が高まるが、国民全体に影響を与える政治的意志決定においても、ソフト部門の専門家(技術者)の見識や主張が尊重されやすくなる。

テクノクラシーの進展は、市場経済の発達や産業構造の転換とも関係しているが、テクノクラシーを歴史的・経済学的文脈で更に的確に理解するためには、ダニエル・ベル(Daniel Bell, 1919-)『脱工業社会の到来』ジョン・ケネス・ガルブレイス(John Kenneth Galbraith, 1908-2006)『新しい産業国家』が参考になる。

ダニエル・ベルは科学技術の進歩や急速な経済成長によって、社会の階層分化が進み物的な生産物に対する需要が減少すると予測して、モノ(物理的な財)を生産する『工業社会・産業社会』の後に、知識・情報・サービスを組み合わせて知的な価値(ノウハウ)を生み出す『知識社会・情報社会』が到来すると主張した。

ダニエル・ベルの言う『脱工業化社会』とは、物理的な生産物(物的な財)に対する需要が減少して、知識的な生産物(知的な財)に対する需要が増加している知識社会(情報社会)のことである。現代のIT革命やグローバリゼーションを経験した『情報化社会・ネット社会』も、ベルの想像力の射程に収められていて、物的な財の氾濫とステイタス性の低下によって『モノの需要』が減少するという予測も当たっている部分がある。

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[テクノクラシーと資本主義社会における『技術官僚・経営者・専門家・労働者』の機能的連携]

テクノクラシーと資本主義社会における『技術官僚・経営者・専門家・労働者』の機能的連携

アメリカの経済学者・社会科学者であるヴェブレンは、富裕層(有閑階級)の贅沢で華やかな消費を『見せびらかしの消費・衒示消費』として否定的に捉えたが、『技術者と価格体制(1921)』の中で技術者支配論を展開している。専門的技能を持つ技術者集団のことをヴェブレンは『ソヴィエト』と呼んでいる。

制度派経済学の始祖としても知られるヴェブレンは、市場で利益を追求する『営利企業(ビジネス)』よりも社会に必要な財(製品・モノ)を生産する『産業(インダストリー)』のほうを重視していた。そして、経済社会の安定運営に必要な『社会資本』の各部門は、専門的知見と合理的計画に基づいて管理されなければならないという社会主義的な思想を持っていた。

T.ヴェブレンの技術者支配論に影響を受けたのが、ラディカルな科学技術主義を抱いてた技術者のハワード・スコットであり、スコットは『科学による統治(技術力による社会制御)』を掲げた急進的なテクノクラシー運動を展開したものの挫折した。

『思想・歴史・民族』よりも『科学・技術・合理』を優先した政治を行うべきだというテクノクラシー運動自体は斬新なアイデアに基づくものであり、フランスのテクノクラシー運動である『計画主義』や1935年の日本で設立された日本技術協会の基本理念に影響を与えた。世界各地で起こったテクノクラシー運動には、科学の進歩と技術の向上によって、経済社会や国家体制がドラスティックに発展していくはずという合理的な見通しがあったのである。

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[テクノクラシーと技術官僚の支配体制]

テクノクラシーと技術官僚の支配体制

官僚は大きく『テクノクラート(技術官僚)』『ビューロクラート(事務官僚)』とに分類されるが、高度な専門知識と政策作成能力を持つ高級技術官僚による支配体制のことをテクノクラシー(technocracy)と呼ぶ。

テクノクラートとは、『国家・地方自治体・国際政治機関』において政治決定に関与できるレベルの発言力・影響力を持つ技術官僚のことであり、20世紀の近代国家の成長と発展に大きな寄与(貢献)をしたとされている。行政機関に所属して政策決定に関与するテクノクラート(高位の技官)には、『医療系の技官・薬学系の技官・軍事(防衛)系の技官・教育学系の技官・法学系の技官・経済学系の技官』などがあり、それぞれの専門分野の知識・技術・経験に精通している。

現代の日本やヨーロッパの先進国では、行政コストの肥大や政策決定の歪み、議会の形骸化といった『官僚政治の弊害』のほうが目立ってきているが、20世紀の近代国家ではテクノクラートが科学技術の進歩と政治的な意志決定をリンクすることで、国力の増大を実現していたと考えられている。第一次・第二次世界大戦における列強の総動員体制、米ソの冷戦構造における軍事力・技術力の増強、米ソの宇宙開発競争などに高級技術官僚によるテクノクラシーは濃い影を落としている。

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2009年06月25日

[A.A.ラザラスの多次元様式行動療法(multi-modal behavior therapy)][行動療法の目的行動]

A.A.ラザラスの多次元様式行動療法(multi-modal behavior therapy)

心理療法家のA.A.ラザラス(A.A.Lazarus)が開発した系統的なブリーフ・セラピー(短期療法)が『多次元様式行動療法』であり、クライアントのパーソナリティと認知行動パターンを多面的・総合的に理解しようとする技法である。

多次元様式行動療法の治療目標は『適応的な認知』『機能的な行動』の獲得であり、現在の認知行動療法の原型となるような心理療法である。クライアントの包括的・総合的なパーソナリティの把握と合わせて、非適応的な認知を変容させて非効果的な行動を改善させていくのだが、効果測定をしながらできるだけ短期に効果を発揮しようとするところに特徴がある。

多次元様式行動療法では、人間のパーソナリティ(特徴的な性格行動パターン)を以下の7つのレベル(次元)で把握するので、それらの頭文字を取って『Basic ID』と呼ばれることもある。

行動(Behavior)

感情(Affect)

感覚(Sensation)

イメージ(Imagery)

認知(Cognition)

対人関係(Interpersonal relationships)

薬物・薬理(Drugs)

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[ダウン症・ダウン症候群(Down's syndrome)]

ダウン症・ダウン症候群(Down's syndrome)

ダウン症・ダウン症候群(Down syndrome)は、1866年にイギリスの眼科医J.L.H.ダウンによって報告された先天性の症候群で、常染色体の異常によって発症する疾患である。J.L.H.ダウンは当初この症候群のことをつり上がった眼などの顔貌の特徴から『蒙古症(mongolism)』と呼んでいたが、蒙古症という名前はアジア系人種(モンゴル人)に対する人種差別的な意図が込められているとして、現在では『ダウン症候群(ダウン症)』という名称に統一されている。

L.ダウンが発表した論文『白痴の民族学的分類に関する考察』で、蒙古症(モンゴリズム)の身体的特徴として『目尻が上がっていてまぶたの肉が厚い、鼻が低い、頬がまるい、あごが未発達、体は小柄、髪の毛はウェーブではなくて直毛で薄い』などが挙げられている。ダウン症の身体的特徴・顔貌の特徴・各種の症状としては以下のようなものがある。

頭の縦の長さが標準に比べて短い。顔立ちにあまり起伏が見られない。鼻が極端に低い。眼が切れ上がっている。まぶたが深い二重になっている。首周りがふっくらとしている。皮膚がふにゃっとしていて伸展しやすい。耳の上の方が内側に折れ曲がっている。指が短い。親指と人差し指の間が大きく開いている。小指の間接が1つ足りないことがある。掌に猿線があり、指の文様が弓状である。筋肉の緊張が低く、運動機能の発達が悪い。知的障害(精神遅滞)が見られることが多い。免疫力が低く感染症に罹りやすい。心臓奇形や心疾患、消化管の奇形のリスクがある。眼の屈折異常(近視・遠視・乱視)が起こりやすく視力が低下しやすい。浸出性中耳炎に罹りやすい。

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[モデリング(観察学習)による代理強化(vicarious reinforcement)]

モデリング(観察学習)による代理強化(vicarious reinforcement)

A.バンデューラ(Albert Bandura, 1925-)による社会的学習理論では、『社会的行動の学習』は社会的場面において行われると定義している。社会的場面(社会環境)で『他者の行動・態度・発言』を観察することによって、新たな適応的行動を学習することを『モデリング(観察学習)』と呼ぶ。他者の行動を観察して新たな行動様式を学習する『モデリング』が成立するためには、『模範的な行動の観察』と『代理強化』が必要となる。

行動主義心理学(行動科学)では、学習行動は『個人の実際の経験(行動)』『連合的過程(刺激に対する反応の学習)』とによって成立すると考えられており、その行動原理として『レスポンデント条件づけ(古典的条件づけ)』『オペラント条件づけ(道具的条件づけ)』とがある。

レスポンデント条件づけでは『無条件刺激に対する無条件反射』の生理学的なS-R結合を利用して、『無条件刺激と条件刺激の対呈示』を行うことによって、『条件刺激に対する条件反応(条件反射)』を学習させるのである。

レスポンデント条件づけの最も代表的な事例が『パブロフの犬』であり、『食物という無条件刺激』のすぐ後に『ベルの音という条件刺激』を呈示することによって、ベルの音を聴くだけで犬が『唾液(条件反射)』を出すような学習が成立したのである。無条件刺激(食料)と無条件反射(唾液分泌)のS‐R結合が、条件刺激(ベルの音)と条件反射(唾液分泌)という新たなS‐R結合へと置き換えられる学習がレスポンデント条件づけ(古典的条件づけ)である。

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[代理感情・交流分析のラケット]

代理感情・交流分析のラケット

エリック・バーンが開発した交流分析(TA:Transactional Analysis)では、相手の存在を認知する情緒的刺激(反応・態度)のことを『ストローク(stroke)』と呼ぶ。ストロークには、受け取ると心地良くなる『正のストローク』と受け取ると不快になる『負のストローク』とがあるが、正のストロークは自分の存在や言動を肯定するような作用を持つストロークである。正のストロークとして作用する言動・態度には、『共感・肯定・賞賛・慰め・同情・支持・愛情・好意』などさまざまなものがある。

負のストロークとして作用する言動・態度には『否定・非難・批判・罵倒・反対・攻撃・悪意・無視』などさまざまなものがあるが、負のストロークのことを『ラケット(racket)』という交流分析の専門用語で呼ぶことがある。ラケットは自分が感じている本当の感情ではない『代理感情』と関係していることがあり、自分が表現したり伝達したい本当の感情を抑圧して代替的な感情を表出する時に『ラケット(不快なストローク)』が発生しやすくなるのである。

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2009年06月16日

[ゲシュタルト療法の『対話ゲーム・ホットシート』]

ゲシュタルト療法の『対話ゲーム・ホットシート』

パールズ夫妻が開発したゲシュタルト療法については過去の記事でも解説してきたが、ゲシュタルト療法には役割演技(ロールプレイング)をする『対話ゲーム(games of dialogue)』という技法がある。対話ゲームでは『自分のパーソナリティの両極端な要素』を見つけ出し、その二つの対照的(両極)な要素や特徴の間で対話をさせることになる。ゲシュタルト療法のカウンセラーは、クライアントが自分の人格や内面にある『スプリット(両極端な分裂)』を発見できるように促進していくのだが、スプリットの内容は人間に限定されない。

ゲシュタルト療法では精神分析と同じように『夢の仕事(夢分析)』が行われることもあるが、その時には夢に登場する『動物・風景・事物・機械』など人間ではない対象(象徴)もスプリットの要素になってくる。夢の中で自分に襲い掛かってきた『クマ』と対話してみたり、今にも暗い海底に沈没しそうになっている『船』の立場に立って言葉を喋ってみたりすることで、『自分の内的世界に抑圧されている感情・記憶・欲求』などが次第に明らかになってきて自己の統合性(本来の自分)に気づきやすくなるのである。

スプリット(対照的な両極の分裂)に基づく対話ゲームでは、主要なテーマとして『強い自分対弱い自分』『勇敢な自分対臆病な自分』『社交的な自分対ひきこもりの自分』『優秀で適応的な自分対劣等で非適応的な自分』などの対話の図式(二つの両極端な要素)が浮かび上がってくることがある。もちろん、上記の『夢の仕事』の例に挙げたように、これらの主要テーマでは『人間以外の動物・モノ』との間で自己洞察につながる有意義な対話が行われることも少なくない。

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[ローゼンマンとフリードマンの『タイプA性格』]

ローゼンマンとフリードマンの『タイプA性格』

アメリカの精神科医であるR.ローゼンマン(R.Rosenman)N.フリードマン(N.Friedman)が、多くの臨床経験を元に発見した心臓疾患(冠動脈疾患)を発症しやすい性格類型が『タイプA性格』である。ローゼンマンとフリードマンは心筋梗塞・冠動脈疾患・心臓発作など『虚血性心疾患』を起こした患者に対して、性格行動パターンを明らかにするための構造化面接を実施した。その結果、心疾患を発症しやすい性格類型として浮かび上がってきたのが、以下のような特徴を持つタイプA性格である。

成功願望や競争心が平均以上に強く、非常に野心的で負けず嫌いである。

時間的な切迫感や心理的なイライラが強く、いつも時間と仕事に追われていて余裕がない。

他人に対する攻撃性や敵対心が強く、相手が反対したり抵抗するとすぐに怒る。

『自分は何があっても頑張らなければならない・絶対に競争に打ち勝って成功しなければならない』という強迫性が強い。

タイプA性格の人は『競争心が強すぎて心理的・時間的な余裕がなく、他人と敵対して怒りやすい』という性格行動パターンの特徴のために、慢性的なストレスに晒されやすくなっている。ちょっとした不満や失敗などがあると、すぐに激怒して興奮するために、一気に血圧が上昇して心臓・脳の血管にも過剰な負担がかかりやすくなるのである。負けず嫌いで体調不良を認めることもないため、自分でも気づかない内に精神的ストレスを溜め込んで心身共に疲労することがある。そういった毎日の心理社会的要因の積み重ねによって、タイプA性格の人は『心身症としての虚血性心疾患』を発症するリスクが高まってしまうのである。

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2009年06月11日

[対人欲求の分類図式(diagram of interpersonal needs)・支配と服従の欲求]

対人欲求の分類図式(diagram of interpersonal needs)

人間の欲求には多種多様なものがあるが、『食欲・性欲・睡眠欲・安全の欲求』といった基本的欲求を除けば、多くの欲求は『他者の反応・他者との関係性』によって満たされる対人欲求に分類される。心理学の第三勢力であるヒューマニスティック心理学(人間性心理学)では、アブラハム・マズローの『欲求階層説』がよく知られているが、この欲求階層説でも『親和欲求(所属の欲求)・承認欲求(自尊欲求)』が対人欲求として定義されている。

最高次の欲求である自我の枠組みを超えた『自己実現の欲求』も、『社会・他者との係わり合い』の中で、自己の潜在的な能力や本来的な意志を実現するという意味合いがあり、自己実現欲求の一部には『対人欲求(interpersonal needs,wants)』も含まれているのである。

人間の対人欲求には『他者と関わりたいという外向的な親和欲求』『他者と余り関わりたくないという内向的な拒否欲求』との分類があるが、精神疾患や人格障害、対人恐怖症などの要因が無ければ、誰もが多かれ少なかれ『好きな相手(興味を持てる相手)と人間関係を築きたい・自分の価値や魅力を認められたい』という対人欲求(親和欲求・承認欲求)を持っていると推測される。

人間の対人欲求には『親和欲求‐拒否欲求』の対立軸と『支配欲求‐従属欲求(服従欲求)』の対立軸があると仮定されるが、日本の心理学者・齋藤勇はこの仮説に従って人間の対人欲求を分類して図式化している。

『支配欲求』というのは、相手よりも優位な立場に立って、相手に指示・命令を出してコントロールしたいという欲求のことであり、『従属欲求(服従欲求)』というのは相手よりも劣位な立場に立って、相手や集団の指示に従うことで安定した居場所や役割を手に入れたいという欲求である。

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