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2016年06月25日

[老年期精神医学と老年期における統合・英知の可能性3:心身医学的な治療アプローチと敬老精神]

老年期精神医学と老年期における統合・英知の可能性3:心身医学的な治療アプローチと敬老精神

エリク・エリクソンのライフサイクル論の発達段階の捉え方では、老年期の統合の発達課題は『過去の乳児期から壮年期に至るまでの発達課題・他者や社会との関わり合い』を上手く順番に達成して適切に克服できたかどうかに大きく左右されると考えられている。

しかし、過去の発達段階における発達課題で躓いて挫折・失敗・喪失の苦悩を味わわせられていたとしても、老年期になってからの『自分の人生・関係・思想・関係性における認知と行動のポジティブな転換』によって、『今・ここ』から自分の人生をできるだけ受け止めて肯定することは可能なはずであり、それが柔軟性と成熟性を持つ人間の精神の希望につながっているのではないかと思う。

老年期精神医学とエリクソンのライフサイクル理論における統合と絶望:2

老年期精神医学を前提として老年期の心身の疾患の特徴を考えると『免疫力・対応力の低下』によって、ストレス耐性も低下しやすくなり心身のバランスを崩してさまざまな病気(精神疾患も含む)を発症しやすくなってしまう。老化の意味づけは肯定的に転換させることが可能であるが、生物学的・生理的な健康の側面ではどうしても『脆弱性・病気のかかりやすさ』を高めやすくなってしまうのである。

老化の度合いや現れ方は個人差が大きいため、老年期の精神疾患・身体疾患の特徴として『個別性・非定型性(人それぞれの症状の出現をして老化の度合いもばらつきが大きい)』を上げることができ、老年期だからといって一律的・同時的に全ての人の身体・精神の機能が大きく下がっていくというわけではないのである。

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[老年期精神医学とエリクソンのライフサイクル理論における統合と絶望2:老年期に希望はあるか]

老年期精神医学とエリクソンのライフサイクル理論における統合と絶望2:老年期に希望はあるか

老年期精神医学では『医療者側の人生の先達(高齢者)に対する敬意・関心』を基本的な態度として尊重しながら、『統合』という老年期の発達課題の達成と自分の人生の肯定的な受容を促進していくという目標がある。

老年期精神医学と老化による心身の衰え・喪失:1

心身・生理のさまざまな領域で老化は進行し、身体・精神の疾患を誘発する原因になったり症状を悪化させたり、がん細胞化のリスクを高めたりするが、『身体・生理の機能低下』は不可避でも『精神状態・存在価値の成熟と上昇』は可能であり、老年期精神医学は人間の精神の柔軟さと成長の可能性に『老後の英知・希望』を見出すのである。

社会的精神発達論におけるライフサイクル理論(精神発達の8段階)を考案した精神分析家のエリク・エリクソンは、老年期の発達課題を『統合VS絶望の図式』で捉えて老年期で獲得すべき精神機能を『英知』とした。

老年期は、家庭で子供(孫)が自立したり自らの家族を作るようになったりして『子育て・親としての役割』が終わり、職業面でも退職したり嘱託・アルバイトの雇用形態に変わったりで『社会的・職業的な役割』の縮小が起こりやすく、高齢になった友人知人の間でも少しずつ亡くなる人が現れてくる。老年期が『喪失の時期』と呼ばれる所以でもあるが、そういった社会・仕事と家庭・人間関係の両面において『大きな方向転換・役割の変化』を迫られる中で、さまざまな喪失の悲しみや寂しさ、絶望に適応していかなければならない。

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[老年期精神医学と老化による心身の衰え・喪失1:脳の器質的変化]

老年期精神医学と老化による心身の衰え・喪失1:脳の器質的変化

老年期精神医学は、『老年期』の発達段階にある高齢者の『心理状態・発達課題・精神病理』を対象にした理論研究や臨床実践(精神医療)を行っている。現在は高齢の人の人格・尊厳・自意識などに配慮してかつてのように『老人』という言葉はあまり用いられなくなってきており、一般にマスメディアを中心として『高齢者』という言葉が用いられている。

現代における老年期の定義は概ね『65歳以上』とされているが、平均寿命の上昇や健康年齢の延長によって『老年期・高齢者の定義』は今後も引き上げられる可能性があり、現在でも現代において老人と呼ぶべき年齢は『後期高齢者の75歳以上』であるといった意見もある。

一方で、動物(生命)に必然的な『老化』を隠蔽するかのようなこの言葉の変化が、『人間の老い・衰退・死の現実(不可避な老衰と死)』を見えなくして『若さへの執着』を生んでいるという批判もある。老年期や老人という概念には確かに明るくてポジティブなイメージが乏しく、『老化による心身の衰え・死の接近(人生の最終期)』をどうしても自覚させられるような圧迫感や暗さがある。

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2016年06月07日

[バブーフ,サン=シモン,プルードンの思想哲学:ユートピア思想と共産主義]

バブーフ,サン=シモン,プルードンの思想哲学:ユートピア思想と共産主義

ユートピア思想の歴史では、16世紀のトマス・モアやカンパネラを経由して、18世紀の『最後の恋』のレチフ・ド・ラブルトンヌ、共産主義思想(私有財産廃止と完全平等の理想)の先駆けとなる『バブーフの陰謀』フランソワ・ノエル・バブーフ(Francois Noel Babeuf,1760-1797)へと接続していった。

トマス・モア『ユートピア』による理想的・宗教的な世界観:近代ユートピア思想の原点

バブーフの後には、土地・生産手段を公有化するアソシアシオン(協同体)建設の『空想的社会主義』で知られるフランソワ・マリー・シャルル・フーリエ(Francois Marie Charles Fourier、1772-1837)が出た。フーリエは『社会的・動物的・有機的・物質的な四運動の理論』を前提にして、社会運動において物理世界におけるニュートンの万有引力の法則に相当するという『情念引力の理論』を提唱したが、これらは科学的根拠や検証方法がないという意味でも空想的社会主義に該当する概念であった。

アンリ・ド・サン=シモン(Claude Henri de Rouvroy,Comte de Saint-Simon,1760-1825)も空想的社会主義の思想家に分類されているが、社会の重要な任務は富の生産活動の促進にあるとして、資本家・労働者の産業階級を貴族・僧侶より重視する産業資本主義のリアリズムの視点を導入するなど先見の明のある思想家でもあった。

産業資本主義の発展を見据えて『テクノクラート(技術官僚)の予言者』と呼ばれたサン=シモンは『50人の物理学者・科学者・技師・勤労者・船主・商人・職工の不慮の死は取り返しがつかないが、50人の王子・廷臣・大臣・高位の僧侶の空位は容易に満たすことができる』という貴族・僧侶を侮辱する発言をして、1819年に告訴されたりもしている。

ユートピア思想の系譜には、カール・マルクスの論敵であり、『無政府主義の父』と呼ばれたピエール・ジョセフ・プルードン(Pierre Joseph Proudhon,1809-1865)も名を連ねている。プルードンの代表作には『所有とは何か(1840年)』『人類における秩序の創造(1843年)』『貧困の哲学――経済的諸矛盾の体系(1846年)』の三部作がある。

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[トマス・モア『ユートピア』による理想的・宗教的な世界観:近代ユートピア思想の原点]

トマス・モア『ユートピア』による理想的・宗教的な世界観:近代ユートピア思想の原点

人類の政治・経済と戦争・革命の歴史は、『ユートピア』を求めるダイナミックな物語であり果敢な挑戦でもあった。思想家・哲学者の歴史の一部も『ユートピア思想』の系譜と重なっているわけだが、人類は古代ギリシアのソクラテスやプラトンも含めて、二千年以上の長きにわたって今の現実世界にはない理想のユートピアを追い求めてきたのである。

今の現実世界や日々の生活の中にはない『理想的な世界・生活・政治経済などの仕組み』を想像力を駆使して構想・計画していくのがユートピア思想の仕事である。ユートピア思想を歴史的かつ体系的に研究した書物として知られるものとして、ドイツのマルクス主義の哲学者エルンスト・ブロッホ(Ernst Bloch、1885-1977)『ユートピアの精神』『希望の原理 全三巻』がある。

ユダヤ人で米国に亡命したE.ブロッホは、当時の先進的な民主主義国家であったはずのワイマール共和国が、なぜナチスやヒトラーを生み出したのかというナチズム形成に関する批判的な研究も行っている。

ユートピア思想の本格的な歴史の黎明は『ルネサンス期〜近代初期』であり、イングランドの思想家・神学者トマス・モア(Thomas More,1478-1535)『ユートピア(1516年)』がその先駆けとなった。“ユートピア(Utopia)”という言葉は『どこにも無い』という意味であり、日本語では『理想郷・桃源郷』と翻訳されることが多い。明治期の日本では、ここにはない世界といった意味でユートピアを『無何有郷(むかうのさと)』などと訳したりもした。

トマス・モアは『離婚問題・英国国教会問題』で対立したヘンリー8世にロンドン塔に幽閉されて1535年7月6日に処刑されたことから、キリスト教カトリックの殉教者としても知られている。ヘンリー8世はイスパニア王女カザリンと結婚していたが、カザリンの侍女アン・ブーリンに惚れて離婚した。トマス・モアは原則として離婚を認めないローマ・カトリックの立場に立って、ヘンリー8世のアン・ブーリンとの無節操な再婚に反対して結婚式に出席しなかった。

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2016年06月04日

[儀礼とイデオロギー:自発的な権威・権力・伝統の尊重と服従]

儀礼とイデオロギー:自発的な権威・権力・伝統の尊重と服従

ドイツ語を語源とするイデオロギー(ideology)とは、非物質的な思想・観念の体系であり、社会集団において人々の価値観・行動・生活様式を根底的に規定しているものである。思想・観念・信条の体系としてのイデオロギーは、人々のマクロな世界観にまつわる思想としての『コスモロジー論(宇宙論)・象徴論』を生み出す母胎でもあるが、社会共同体におけるイデオロギーは儀礼的実践過程を通して段階的に形成される。

クロード・レヴィ=ストロースの文化人類学と主観主義(学者の解釈図式)の克服:2

社会構造の変動や歴史的な価値の変革に合わせるようにして、イデオロギーは儀礼と共に機能・役割を変化させていくという意味では相対的なものである。イデオロギーの動因にもなる儀礼研究は『時代・文化・価値と共に変化する』という意味において、相対的であると同時に動態的(ダイナミック)なものでもある。

構造主義・機能主義という概念に示される人類学は、歴史的な時間に左右されないという点において『静態的(スタティック)』な特徴を持っていて、歴史を軽視したり解消したりする作用も持つ。それに対して、『儀礼研究』は社会共同体の歴史を重視するという点において『動態的(ダイナミック)』であり、静態的な人類学を批判するようなポジションに立っているのである。

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[クロード・レヴィ=ストロースの文化人類学と主観主義(学者の解釈図式)の克服:2]

クロード・レヴィ=ストロースの文化人類学と主観主義(学者の解釈図式)の克服:2

文化人類学では社会共同体の『儀礼・イデオロギー』も研究対象にするが、儀礼やイデオロギーを研究する場合の問題として『主体と客体の混同』がある。

例えば、ある未開民族の儀礼・イデオロギーを観察して分析・解釈していくプロセスでは、どうしても『文化人類学者の主観的な解釈図式』がそこに介在することになり、『完全な客観主義・客体記述』は原理的に不可能なのではないかという見方も強くあるのである。

クロード・レヴィ=ストロースの文化人類学と未開社会の秩序・規則の解明:1

文化人類学の儀礼やイデオロギーの客体記述の困難さ(研究者・観察者の主観的な解釈図式の関与)というのは、哲学的な『他者理解の不完全性・不可能性』とも絡んでくるテーマであるが、この問題を解決するヒントは『研究者の外部からの解釈』『当事者の自発的な自己解釈』とのズレを認識してきちんと区別して事象の内容を双方向的に整理することだろう。

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[クロード・レヴィ=ストロースの文化人類学と未開社会の秩序・規則の解明:1]

クロード・レヴィ=ストロースの文化人類学と未開社会の秩序・規則の解明:1

人類学・文化人類学の分野では、クロード・レヴィ=ストロース(Claude Levi-Strauss,1908-2009)の著書『親族の基本構造(1949年)』『悲しき熱帯(1955年)』『野生の思考(1962年)』に代表される未開民族のフィールドワークがよく知られている。

クロード・レヴィ=ストロースの思想・研究手法は『フェルディナン・ド・ソシュールやヤコブソンの構造言語学』『エミール・デュルケームやマルセル・モースの社会学・人類学の分析手法』の影響を受けている。それ以外にも、博物学・マルクス主義(社会変革思想)・前衛的な芸術理論(キュビズムやシュール・レアリスム)など多方面の分野の知識に刺激を与えられたという。

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