交流分析のストローク(stroke)とカウンセラーの『3つのP』
エリック・バーン(1910-1970)が創始した交流分析は『精神分析の簡易版』と呼ばれることもあるが、交流分析では個人間のコミュニケーションと相互作用の分析によって対人関係の改善を図ろうとする。『P(親)・A(大人)・C(子ども)の自我状態』を用いたコミュニケーション(相互作用)の分析のことをエゴグラムと呼び、交流分析ではエゴグラムの作成と分析によってクライエントの人格構造(性格特徴)やコミュニケーション形態の理解を深めていく。相手に言語的・非言語的メッセージを送る場合に、P・A・Cのどの自我状態が優勢(劣勢)であるのかによって、相手の心理や行動に与える影響の大きさが変わってくるので、P・A・Cの自我状態をTPOや相手の心理状態に合わせて使い分けることが大切である。
交流分析では他者と情緒的な交流をする時に、他者との間で『ストローク(stroke)』のやり取りをすると考えるが、ストロークとは『相手の存在を認知する感情的刺激』のことである。相手がそこにいることを認める存在認知の感情的刺激のことをストロークといい、人間はストロークによって自己の存在意義や相手との関係性、社会的な位置づけを自己認識することができる。ストロークは人間の生存維持に不可欠なものであって、乳幼児期に母親(養親)のポジティブなストロークが欠如すると、感情鈍磨や活動性(刺激反応性)の低下、言語発達の遅れなどホスピタリズムの問題が起こってくることがある。
ストロークには『言語的ストローク(言葉・会話)・非言語的ストローク(表情・態度)・身体的ストローク(身体接触・愛撫)』の種別があり、相手の存在を肯定する『ポジティブなストローク』と相手の存在を否定する『ネガティブなストローク』とがある。乳児期の発達課題である『基本的信頼感』と幼児期の発達課題である『自律性・積極性』は、無条件のポジティブなストロークを与えられることによって達成することができる。
他者(母親・父親)から自分の存在意義を無条件に承認されることによって、『一つ一つの課題(目標)の失敗・挫折』に絶望しない自尊心や自己肯定感を形成することができる。『この試験に落第したら自分の人生はおしまいだ・これに上手く成功しなければ自分には価値がない・この相手に嫌われてしまったら自分はもう生きていけない』というような非適応的認知は、『試験で良い点数を取った時だけ賞賛される・社会的評価が高くないと親が喜んでくれない』といった『条件つきのストローク』によって生まれやすくなる。
交流分析的カウンセリングを実施するカウンセラーには、『3つのP』と呼ばれる要素が必要になってくる。交流分析家のパット・クロスマン(Pat Crossman)が提唱した『3つのP』とは『Permission(許可)), Protection(保護), Potency(能力)』のことであり、特にクライエントの人生設計や自己規定(自己概念)を検討していく脚本分析のセッションにおいて重要な態度となる。
Permission(許可)とは、両親の指導・教育によって与えられた自己否定的・将来悲観的な人生脚本を『書き換えても良い』という許可を与えることであり、自分の人生計画や自己認識を良い方向に変化させるきっかけを与えることでもある。Protection(保護)とは、今までの人生脚本を書き換える過程で生じる不安感や自信喪失からクライエントを守ることであり、具体的には心理的保証や共感的理解、支持的対応などのことを意味している。Potency(能力)とは、専門的な知識や実践的な技法に裏打ちされたカウンセラーの能力のことであり、クライエントの多種多様な問題に対応できるだけの能力・技術を身に付けていなければならない。交流分析の3つのPは、カール・ロジャーズの来談者中心療法(クライエント中心療法)における『カウンセラーの基本的態度(徹底的傾聴・共感的理解・純粋性・無条件の肯定的受容)』にも共通する特徴を多く持っている。