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2008年07月27日

[フォーカシングのフェルト・センス(felt sense)とフェルト・シフト(felt shift)]

フォーカシングのフェルト・センス(felt sense)とフェルト・シフト(felt shift)

カウンセリング技法の一つであるフォーカシング(focusing)は、身体感覚や内的体験に注目して心身の不調を改善しようとする技法であり、アメリカの心理学者ユージン・ジェンドリン(Eugene T. Gendlin, 1926年-)によって考案された。ユージン・ジェンドリンは元々シカゴ大学で哲学を研究していたが、カール・ロジャーズの共同研究者として実践的なカウンセリングの体験をしたことが機縁となり、心理臨床分野の技法開発にも興味を持ち始めた。

1958年に『象徴化における体験過程の機能(“The function of experiencing in symbolization”)』という学位論文を発表して博士号を取得し、人間の体験過程を象徴化して認識する具体的な方法論として『フォーカシング(focusing)』を提案したのである。 1961年にウィスコンシン大学精神医学研究所所員となり、1978年には妻のメアリーと共に来日してフォーカシングの実践的技法を教えるワークショップを開催したが、1997年9月にタクシー事故に遭って下肢麻痺の後遺症を負ってからは哲学研究がメインになってきている。

フォーカシングとはクライエントが自分の『心の実感・本質』に触れるための技法であり、体験過程を象徴化(言語化)して認識することで心身の困難・症状を改善しようとするものであるが、その基礎理論として『体験過程理論(Experiencing theory)』がある。自分の心の中にある生々しい感じや本当の実感に触れて、それを象徴的に言語化するというのがフォーカシングの方法であるが、体験過程は『意識と無意識の境界にある身体感覚』に意識を向けることで実感できるようになってくる。

フォーカシングというのは特別な心理技法ではなく、『自分の内面にある実感・感覚・感じ』に適切に気づくための方法論であり、フォーカシングには『現象としてのフォーカシング』『技法としてのフォーカシング』の二つがある。『現象としてのフォーカシング』とは、まだ言語化されていない『気になる感覚・内面にある感覚』に注意を向けて、その感覚を受動的に感じて感覚と共に時間を過ごすことであり、感覚に対して特別な働きかけをするわけではない。この気になる感覚や意味のある内的感覚のことを『フェルト・センス(felt sense)』と呼び、フォーカシングではこのフェルト・センスに上手く気づいて感じること最も重要なステップになる。

『技法としてのフォーカシング』とは、意識と無意識の中間領域で生成変化していく体験過程(フェルト・センス)に注意を向けて、そのフェルト・センスを象徴化して言語で表現しようとする技法的なフォーカシングのことである。ユージン・ジェンドリンは『技法としてのフォーカシング』をショートフォームと呼んで、 最初に身体の中心部分(胸部・腹部)にぼんやりと受動的な注意(受け身の意識)を向けて、気になる身体感覚(フェルト・センス)に気づいたら、その身体感覚に適当な言語表現(感じの呼び方)を与えるように指導した。このフェルト・センスに当てはめた名前(言語表現)のことを『ハンドル』と呼ぶが、フォーカシングを効果的に進めていくためには『身体の感じ』と『ハンドル』がぴったり一致するまで何度もハンドルを考えることが大切である。

『身体感覚(フェルト・センス)』と『ハンドル』がぴったりと一致すると心地よい解放感や胸に沁みてくる充実感を感じることがあるが、この『ぴったりとくるいい感じ』への変換のことを『フェルト・シフト(felt shift)』と呼ぶ。フォーカシングの心理療法は、フェルト・シフトを実感してその体験過程を受容することによって効果を発揮するが、フェルト・センスに対して『この身体の感覚は、私のどんな経験や悩みと関係しているのか?』といった質問を行いながらフォーカシングを進めていくとより的を絞った改善効果を期待できる。

ジェンドリンは、フォーカシングをカウンセリングに還元して技法を体系化し、『フォーカシング指向心理療法 (Focusing Oriented Psychotherapy) 』と名づけた。このフォーカシング指向心理療法の重点はフォーカシング(感覚的技法)にあるのではなくて、『フォーカサーとリスナーの共感的関係性』にあることに注意が必要である。フォーカシングの面接では、身体感覚を感じて象徴化する人を『フォーカサー(focuser)』と呼び、その体験過程を促進するために傾聴したりアドバイスしたりするカウンセラー役の人を『リスナー(listener)』と呼ぶ。

posted by ESDV Words Labo at 03:59 | TrackBack(0) | ふ:心理学キーワード | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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