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2008年08月26日

[消費文明社会と耐久消費財]

消費文明社会と耐久消費財

イギリスの産業革命(工業革命)の進展と資本主義市場の拡大によって、近代国家の経済生産力は飛躍的に増大し国民の物質的な生活は格段に豊かになった。科学技術と機械技術の進歩によって実現した産業革命とは重化学工業・機械工業の発達のプロセスであるが、急速な産業構造の工業化によって『規格型製品の大量生産−大量消費』が可能になった。労働集約型の工場(プラント)で生産される規格型商品は、大量に生産すればするほど『生産コスト(材料費・輸送費・人件費など)』を削減することができ、工場を休まずに稼動させればさせるほど効率性と利益率が高くなっていく。

そのため、最近はエコロジー(環境保護)やリサイクル(資源再利用)、多品種少量生産、資源節約に付加価値が生まれてきているものの、近代国家の経済活動は基本的に『大量生産・大量消費・大量廃棄』に支えられている。現代社会の経済活動の多くは、消費者の選択や行動・需要によって支えられており、消費によって生活の豊かさと経済の好不況が判定されるという意味でも消費文明社会である。19世紀〜20世紀初頭までは、社会・市場にモノの総量が不足していたこともあり、企業・生産者が大量に生産すればするほど商品は順調に売れていたが、現在の先進国では消費者の商品・サービスを選択する基準が非常に厳しくなっていて単純に生産すれば売れるというわけでは全くない。現代の市場経済では、モノ不足の時代に認められていた『供給が需要を決定する』という新古典派のセーの法則が通用しなくなり、『需要が供給を決定する』というJ.M.ケインズが提起した有効需要の法則によって商品・サービスの消費量が規定されることがほとんどである。

生活必需品が極端に不足している市場経済では、北朝鮮やアフリカ諸国のようにとにかくモノがあれば売れるというセーの法則が通用するが、モノが溢れた先進国の市場経済では、消費者が欲しいと欲求する付加価値のある商品を生産しなければ売れないという有効需要の法則が成り立つ。19世紀のイギリス経済、1920年代のアメリカ経済、1970年代の日本経済は急速な勢いで高度経済成長を実現したが、消費文明社会で経済成長の強力な原動力となり労働者(サラリーマン)の労働意欲を支えてきたのは付加価値の高い『耐久消費財』である。耐久消費財とは、消費者のライフスタイルの豊かさを象徴的に示唆するものであり、売却価値のある『消費者資産』を形成するものだったので、高度経済成長期の労働者は『住宅・自動車・電化製品・家具』といった耐久消費財を購入して生活空間を豊かにするために懸命に働いたという側面がある。

耐久消費財とは『原則として想定耐用年数が1年以上で比較的購入価格が高いもの』を指すが、その代表が住宅・自動車・高級家電などであり、こういった高額商品購入への欲求が労働者の労働意欲やモチベーションとの密接な相関を持っているとされる。住宅・自動車・高級家電・高級家具といった耐久消費財は、消費者にとっての数少ない売却価値を持つ消費者資産であり、耐久消費財は一般的に日用品と比べて多くの労働力の投入によって作られ一つ一つの商品の価格も高いので、耐久消費財が多く売れると景気情勢や雇用状況が良くなってくる。消費社会における中産階級の形成段階では、『耐久消費財の購入』は自分が中産階級であることを自己確認するアイデンティティにつながっており、『耐久消費財の普及』によって家庭生活と消費活動が合理化され、身分制社会における絶対的な生活格差が縮小されることになる。

封建制社会において、王侯貴族など特権階級のみが享受できた便利で豊かなライフスタイルを大衆層(中流階層)にまで拡大したという功績が耐久消費財にはある。富裕層であっても中流階層であっても、液晶テレビやプラズマテレビを超える機能を持つ特殊なテレビを購入することはできないし、メルセデスベンツやBMW、ジャガーなどの高級車があるとしても、自動車の基本性能にはそう大きな違いがあるわけではない。

自由市場経済における耐久消費財の登場と普及は『文化の大衆化・画一化』という作用をもたらし、封建主義的な特権階級だけが享受していたライフスタイルを無効化し、富裕層といえども『商品の基本機能の選択肢』においては大衆層との違いをそれほど強調することができなくなったのである。無論、数億円もする高層マンションや何千万円の高級車、特殊な希少価値を持つ貴金属・骨董品・ブランド品などを購入するセレブな富裕層のライフスタイルというのは現代でもあるが、中流階層が手に入れられる商品・サービスの基本機能を大幅に越えるものではなく、その高級感の内容の多くは『優越感・満足感といった精神的充足』に重きが置かれている。

また、大半の消費活動は金銭との交換価値を持たないが、市場価値を残した新しい住宅や自動車、高級家電などは必要があれば金銭と交換(売却・質入)することが可能な消費者資産としての側面を持つ。現代の先進国の多くでは、国内需要(国内消費)が低迷しており経済成長も鈍化しているが、その理由の一つとして『耐久消費財が既に一通り行き渡ってしまったこと・労働者の所得格差が拡大してきたこと』により価格の高い耐久消費財の購入が伸びないことが想定される。自動車に乗っている人が少なかった時代には『自動車を購入すること』には特殊なステータス性があったし、家電製品が普及していなくて家事が大変だった時代には『家電製品のある家庭生活』への強い憧れがあった。

しかし、現代社会ではテレビ・洗濯機・冷蔵庫・クーラー(冷暖房)といった耐久消費財を既に購入し終わっている家計が多く、『持っていて当たり前の感覚』になっているので、無理をしてまで耐久消費財の消費サイクルを早くしようとする人が減ったと考えられる。不安定で所得水準も低い非正規雇用・アルバイトが増えたことも耐久消費財の消費減少に関係しており、環境保護・資源節約を訴えるエコロジー思想によっても大量消費を前提とするライフスタイルが否定されやすい時代状況がある。



posted by ESDV Words Labo at 09:38 | TrackBack(0) | た:心理学キーワード | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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