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2008年10月30日

[精神分析の自由連想法(free association)と夢分析][オットー・ランクの出産外傷説(birth trauma)]

精神分析の自由連想法(free association)と夢分析

S.フロイトが創始した精神分析(精神分析療法)の中心的技法は『夢分析(dream work)』『自由連想法(free association)』であり、精神分析家が準拠すべき基本的態度には『分析者の中立性・クライアントの鏡・禁欲原則』などがある。フロイトはクライアント(被分析者)の『夢』に精神症状や不適応の原因となっている無意識的願望が反映されていると考えたが、『夢分析』とは夢の内容やイメージを分析することによってクライアントの苦悩の原因となっている抑圧された感情や記憶を再現しようとするものである。

この夢分析における作業は『無意識の意識化(言語化)』としての効用を持つが、夢分析のプロセスにおいても自由連想の技法が用いられることがある。夢のイメージや物語は『抑圧された無意識的内容・無意識的願望』を直接的に反映するわけではなく、夢には『抑圧・圧縮・置き換え・象徴化・視覚化』といった検閲作用が加えられている。夢分析される前の見たイメージのままの夢のことを『顕在夢(けんざいむ)』といい、顕在夢を分析していく過程で得られる無意識的内容が反映された夢のことを『潜在夢(せんざいむ)』と呼ぶこともある。夢に各種の検閲が加えられて潜在夢の内容が分からなくなるのは、自我に苦痛や屈辱を与える『無意識的願望・あからさまな性的衝動』を隠蔽するためだと考えられている。

夢の検閲機能は無意識的願望を抑圧(隠蔽)するためのものであり、圧縮とは『複数の対象や意味をひとつの対象にコンパクトにまとめる作用』のことである。置き換えとは恐怖心を怪物に置き換えるように『本来の対象や感情を異なるものに置き換える作用』のことであり、象徴化とは『棒状・尖端状のものを男性性器の象徴とし、空洞状・筒状のものを女性性器の象徴とするような作用』のことである。

視覚化とは『本来目に見えない感情や葛藤を目に見える対象に変容させる作用』である。自由連想法(free association)は精神分析のもっとも基本的な技法であり、『頭に思い浮かぶことは何でもそのまま自由に話してください』という教示と共に行われる。頭に思い浮かんでくるイメージや思い出(記憶)、感情や苦悩を自由に言語化して話すことによって、精神の退行や転移といった心的現象が起こりやすくなり、『自己洞察の深化』によって自由連想を疎外する精神病理の実態が明らかになっていくのである。

オットー・ランクの出産外傷説(birth trauma)

オットー・ランク(Otto Rank, 1884-1939)はオーストリアの非医師の精神分析家でありS.フロイトの直系の弟子として知られる。1912年には精神分析協会の委員会の中で中核的メンバーの1人となっており、オットー・ランクはカール・アブラハム、サンドール・フェレンチ、アーネスト・ジョーンズ、ハンス・サックスと一緒に、フロイトから親愛の証である『インタリオ(彫刻入りの金の指輪』を贈られている。しかし、1919年にランクがポーランドからウィーンに戻った時期に、フロイトとの師弟関係が悪化して決別することになる。フロイトとランクの良好だった仲が決裂した理由のひとつとしてランクの『出生外傷説・出産外傷説(birth trauma)』が上げられているが、実際にはアーネスト・ジョーンズやカール・アブラハムがフロイトに気に入られていたランクに敵意を持っており、ランクの仮説的理論の問題点をフロイトに強引に指摘したことが大きな原因とも言われている。

オットー・ランク出産外傷説(出生外傷説)というのは生得的なトラウマ仮説であり、未熟な状態で母胎から出産する新生児が『出産時の窒息・仮死・恐怖』によって生まれながらに心的外傷(トラウマ)を負うというものである。O.ランクが母子関係と死の恐怖(永遠の生への願望)を中心にして仮説を立てたのに対して、S.フロイトはエディプス・コンプレックスの父子関係やリビドー(性的欲動)の抑圧・発達の固着を中心にして仮説を立てた。これが両者の理論的対立につながったといわれるが、O.ランクの出生外傷説の要点は人間は生まれながらにトラウマを受けているということにある。

そのため、誰もが何らかの精神的ストレスや欲求の抑圧によって、神経症(ヒステリー)になる可能性があるのであり、すべての神経症の根本原因は出生時のトラウマにあるというのである。ランクは精神分析の自由連想によって出生時外傷を想起することが可能であると考え、トラウマの意識化(言語化)によって精神症状の本質を洞察して症状を軽減できるとした。出生外傷説は正統派の精神分析学(自我心理学)にはほとんど顧みられなかったが、人間の精神的脆弱性(発病可能性)を生得的なトラウマに求めて、『心理的離別(分離・個体化)』を精神発達の重要な要因と考えたランクの仮説には、その後の発達心理学(児童期心理学)につながる鋭いアイデア性がある。

posted by ESDV Words Labo at 09:27 | TrackBack(0) | し:心理学キーワード | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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