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2008年11月18日

[認知療法における『思考・気分(感情)・行動・生理(身体)』の相互的関係]

認知療法における『思考・気分(感情)・行動・生理(身体)』の相互的関係

アーロン・ベックによって『うつ病適応の心理療法』として提唱された認知療法(cognitive therapy)は、“認知(思考)”“気分(感情)”を規定するという前提を持つ。外界の嫌な出来事や他者の不快な言動という『客観的な事象』によって憂鬱感や不安感、気分の落ち込みといった『気分(感情)の変化』が起こるのではなく、客観的な事象をどのように受け止めて解釈するのかによって『気分(感情)の変化』が起こるという人間観がそこにはある。嫌な出来事や不快なコミュニケーションがあれば、誰でも『不快な気分・怒りの感情』が引き起こされやすいが、そこで『自己否定的な認知・他者を攻撃する考え方』をすれば更に気分が落ち込んで不快になり他人に対する悪意は強まってしまうということである。

認知療法はアルバート・エリスの論理療法(論理情動行動療法)の影響を受けた心理療法であり、エリスが提起した『ABCDEモデル』の感情形成のメカニズムを当てはめてクライアントの状態を考えることができる。アルバート・エリスは、物事を悲観的に考えて自分を過剰な義務感で追い込む『非合理的な信念(イラショナル・ビリーフ)』によって気分が悪化し問題が深刻になると考え、物事を楽観的に考えて自分の意志を大切にする『合理的な信念(ラショナル・ビリーフ)』によって気分が改善し環境に適応しやすくなるとした。

認知療法では自分の状況や周囲の出来事をどのように認識するかという精神機能を『認知(cognition)』という概念で表現する。認知療法の主要な治療機序は、抑うつ感や無力感、絶望感など病的な心理状態を生み出す『否定的・悲観的・破局的な認知(=ネガティブな物事の捉え方)』を現実的で適応的な認知に変えていくことにある。非現実的で自分を酷く落ち込ませるような認知や悲観的で自分の存在価値を否定するような認知には一定の決まったパターンがあり、そういった精神疾患の症状や自己否定的な感情を生む認知パターンのことを『認知の歪み』と呼ぶことがある。

『いやな気分よ、さようなら』の認知療法の著書で知られるデビッド・D・バーンズは、『認知の歪みの10個のパターン』を定義している。日常生活のさまざまな場面や状況の中で自然に湧き上がってくる考えや思いのことを『自動思考』というが、自動思考は無意識的に『認知・考え方』『過去の経験・トラウマ』などの影響を受けているのである。

認知療法では自分の気分や認知を書き込む『ワークシート』を用いたセッションを行うことが多いが、ワークシートに適切な書き込みをするには定期的なセルフモニタリング(自己観察)が必要になる。ワークシートに自分の認知や気分(感情)、出来事などを記入していく意義は、『認知(思考)の内容』『自分の気分』を実際に大きく左右するということを実感してもらうということである。

例えば、恋人が自分に電話をかけてこない時に『もしかしたら、浮気しているのではないか?』と認知してしまうと、不安感や嫉妬感情、苛立ちなどのネガティブで不快な気分(感情)に襲われるが、『体調が悪くて電話できないのでは?仕事が忙しくなって疲れているのでは?』と認知することができれば、嫉妬やイライラといった気分ではなく相手を気遣って心配する気分が起こりやすくなる。

確かに、恋人が実際に自分を裏切って浮気をしている可能性もあるが、『現在の時点』でそれを確実に断定できない以上、悪い方向の想像や認知ばかりを強めるよりも、良い方向の想像や認知を働かせたほうが自分の精神状態は安定することになる。こういった恋愛の問題に限らず、一般的な人間関係においても『最悪のケース・相手の悪意』を前提にして悲観的な認知をすることは、不快な気分の落ち込みや体調の悪化などを招いてしまうだけで、自分の心身の安定にとってのメリットは殆どないと言える。

認知療法の前提にある心理モデルは『認知(思考)・気分(感情)・行動・身体(生理)』が相互に影響・作用を与え合っているというモデルであり、認知を変えれば気分や行動が変わり、行動を変えれば認知や気分も変わるという相関関係を示唆している。もちろん、身体(生理)の状態が悪くなれば気分(感情)が悪化しやすくなるし、重い病気の症状で苦しんでいる人はネガティブな認知に巻き込まれやすくなるといった相互的関係も見られる。

自律神経失調症の身体症状やパニック発作(恐慌発作)が起こるパニック障害では、心臓がドキドキとする動悸や呼吸の息苦しさといった『身体の不調』を悪い方向に認知することで、『自分は心臓発作で死ぬのではないか・このままパニックでおかしくなってしまうのではないか』と考えて更にパニック発作の症状を強化してしまう恐れもある。

こういった自分の身体症状(体の些細な違和感)を悪い方向に認知する癖がつくと、電車・バスに乗ると必ずパニック発作(呼吸困難・心悸亢進)に襲われるに違いないという『予期不安』が起こりやすくなり、公共交通機関を利用できないという『行動の抑制(生活不適応)』にも発展しやすくなってくる。外出困難になるパニック障害の症例では、『身体(パニック症状)・認知(予期不安)・気分(不安感)の相互作用』が強く見られることが多い。



posted by ESDV Words Labo at 22:03 | TrackBack(0) | に:心理学キーワード | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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