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2008年12月30日

[ツァラのダダイズム(Dadaism)・否定と破壊の反芸術思潮]

ツァラのダダイズム(Dadaism)・否定と破壊の反芸術思潮

『ダダイズム(Dadaism)』とは第一次大戦中の1910年代にヨーロッパで起こった芸術運動であり、『ダダ』という言葉自体はスイスのチューリッヒにあったキャバレー・ヴォルテールに集った芸術家・文芸家によって生み出された。ダダイズム(ダダイスム)は伝統的な価値観や芸術手法をラディカルに否定しようとする前衛的(アバンギャルド)な芸術運動であり、人類史上初の『総力戦(大量殺戮を伴う近代兵器の衝突)』となった第一次世界大戦の悲惨極まりない状況を前にした『虚無主義(ニヒリズム)』をベースにしていた。

第一次世界大戦を生み出した既成秩序や社会常識、西洋文明の伝統に抵抗して『破壊・否定・攻撃』を唱導するダダイズムは、その後のシュルレアリスムの流れにも大きな影響を与えることになった。そのため、ダダイズムの発生は第一次大戦に対する『反戦・厭戦の気分』と完全に切り離して考えることはできない。

『ダダ』という名称はキャバレー・ヴォルテール(チューリッヒ)の常連であったルーマニアの詩人トリスタン・ツァラが1916年に命名したとされるが、ダダイズムの運動自体はヨーロッパの主要都市とアメリカのニューヨークなどで同時多発的に拡散していった。チューリッヒのダダイズムに関係した人物には、トリスタン・ツァラ、ヒューゴー・バル(キャバレー・ヴォルテールの主催者)、ハンス・アルプ、リヒャルト・ヒュルゼンベック、マルセル・ヤンコ、ハンス・リヒターなどがいる。ニューヨークのダダイズムに関係した人物には、F.ピカビア、K.シュヴィッタース、M.レイ、M.デュシャンらがいるが、『アサンブラージュ・コラージュ・フォトモンタージュ』などの斬新な芸術技法を取り入れた造形運動はニューヨークにはほとんど広まらずフランスのパリで行われた。

トリスタン・ツァラは辞書にナイフを突き立ててそこに合った単語から『ダダ』と名づけたという逸話を持っているが、1918年には『宣言そのものを無効とするメタメッセージ』を込めた『ダダ宣言』を行う。

破壊と否定、秩序の拒絶を中核とするダダについて、ツァラは『ダダは何も意味しない』ということを合言葉にして世界中に運動を拡散していき、アバンギャルド芸術を開花させる『ダダの細菌』を広めたのである。ダダイズムの運動では『ダダ』という言葉は何も意味しておらず定義することもできないというのが前提であるが、ツァラが偶然に選んだダダという言葉の原義はフランス語では『木馬』、スラブ系言語では『相槌』を意味する言葉であった。

否定・破壊を本質とするダダの急速な広まりによって、ダダイズムのうねりはドイツ、フランス、イタリア、ベルギー、オランダ、スペイン、日本の芸術家や文学者たちも巻き込んでいくことになった。アンドレ・ブルトンの招聘によって1920年1月にパリに赴いたツァラは演劇活動などに精力的に取り組み『パリ・ダダの季節』を作り上げるが、ダダに社会運動的な意味を付与しようとするブルトンとダダは飽くまで既成秩序を破壊する無意味なものであるとするツァラの対立は次第に深まっていった。ブルトンが企画立案した『新精神(エスプリ・ヌーヴォー)』の方針にツァラが反対したことで対立が激しくなり、1923年7月にツァラの戯曲『ガス仕掛けの心臓』がブルトンに暴力的に妨害されてパリ・ダダの季節は終焉したのである。

ダダイズムは『破壊・否定・拒絶』を唱導するニヒリスティックな反芸術思想として定義することができるが、ツァラの本当の狙いは伝統的な西欧思想文化に内在する『二項対立図式』を否定することであり、ヘーゲル的な弁証法の認識論を克服することだったと言われる。戦争の現象や既存の社会構造を否定しようとするツァラの先鋭的な思想は、既存社会の関係性・正当性を規定している『言語の道具性』へと向けられることになり、ダダイズムは『言語世界の破壊』という地点にまで激化していった。

トリスタン・ツァラのダダイズムは現代思想の価値相対主義や文化多元主義を先取りしたものとしても解釈できるが、関係性・秩序性を規定する言語まで否定しようとしたツァラは過酷な孤独状況の苦しみをも味わうことになった。演劇的手法によってダダの相対主義やパラダイム転換を十分に表現することは困難であり、20世紀初頭のヨーロッパには、虚無主義の先にある相対主義のスペクタクルを受容するだけの知識人階層の構えがまだ準備されていなかったのである。



posted by ESDV Words Labo at 12:53 | TrackBack(0) | た:心理学キーワード | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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