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2009年01月15日

[グレゴリー・ベイトソンのダブル・バインド理論(double bind theory)と芸術のユーモア]

グレゴリー・ベイトソンのダブル・バインド理論(double bind theory)と芸術のユーモア

『精神の生態学』を構想した社会学者・文化人類学者のグレゴリー・ベイトソン(Gregory Bateson, 1904-1980)は、不快な緊張感や不安感を生起させるコミュニケーション・パターンについて『ダブル・バインド理論(double bind theory)』を提唱した。ダブル・バインドは『二重拘束』と翻訳されるように、二つの異なる内容のメッセージを受け取ることで精神状態が拘束されて身動きが取れなくなることを意味する。ダブル・バインド状態(二重拘束状態)は、階層(レベル)の異なる二つ以上の矛盾したメッセージを受け取ることで発生するが、ダブル・バインドが発生すると苦痛な混乱や緊張を感じて自由な意志決定が不可能になってしまう。

グレゴリー・ベイトソンは1956年の『精神分裂病の理論化に向けて』という論文の中でダブル・バインド理論を呈示していて、元々は旧・精神分裂病(現在の統合失調症)の発症原因の一つと考えられていた。ダブル・バインド状況とは、簡単に言えば内容が矛盾する二つ以上のメッセージを受け取ってしまい、どうしていいか分からなくなって混乱してしまうことであるが、ベイトソンはその苦痛な葛藤状況の反復(繰り返し)によって精神分裂病の発症リスクが高まると考えていたのである。現在の精神病理学では、幼少期のダブル・バインドが統合失調症の心理的原因として認められているわけではないが、ダブル・バインドによって心理的な苦痛や葛藤が生まれることは確認されている。

ダブル・バインド理論については[家族療法の中心的研究機関としてのMRI(Mental Research Institute), グレゴリー・ベイトソンのダブルバインド理論(二重拘束理論)]の記事でも説明しているが、ダブル・バインドはバートランド・ラッセルの論理階型理論を前提としている。人間が意志・感情・意図を伝達するメッセージには『複数の論理的な階型(レベル)』があるという仮説であり、ある内容を伝える表面的(ベタ)なメッセージには、その上位階型(メタレベル)にあるメタ・メッセージがついてくるのである。現実的メッセージには、必ず何らかのメタ・メッセージを読み取ることができるといっても良いのだが、これはメッセージには『意図・感情・要求』などが暗黙裡に含まれているからである。

シニカル(冷笑的)な嫌味や苦言などに、メッセージとメタ・メッセージの矛盾は現れやすい。例えば、遅刻をした社員に対して上司が『こんな遅い時間に出勤できるとは、さすが○○さんのような優秀な社員は違うな。重役出勤できるとは私も羨ましいよ』というメッセージを不機嫌な表情で嫌味っぽく伝えたとする。このメッセージには、メタレベルで『もう遅刻はするなよ。俺をこれ以上不愉快にさせるなよ』というメタ・メッセージが含まれているのである。メタ・メッセージというのは、表向きのメッセージについてのメッセージであり、与えられたメッセージの背後にある意図(本心)や感情(要求)を表しているのである。

二重拘束(ダブルバインド)状態は、以下の6つの要素と統合失調症の心因仮説によって定義される。ダブルバインドは、家族関係のコミュニケーション以外でも社会的場面でのコミュニケーションに見られることがあり、三者関係以上で『犠牲者(攻撃・疎外される者)』がいる時には必ずダブルバインド状態が生まれる。

1.2人以上の発話者が存在している。

2.一次的メッセージ(一次的禁止命令)を否定する二次的メッセージ(二次的禁止命令)が発せられる。

3.一次的メッセージの禁止命令とは矛盾した二次的な禁止命令が下されて混乱する。『〜をしてはならない。すれば罰する』という一次的禁止命令と同時に、『〜をしなければならない。しなければ罰する』という矛盾した二次的禁止命令が出されるので、どちらの命令に従っても罰せられると感じて混乱するのである。

4.矛盾する事態から逃げてはならないという状況に追い込まれる。

5.自分が二重拘束状態(ダブルバインド状態)の中にあることを認識する。

6.二重拘束(ダブルバインド)の状態を繰り返し経験してストレスを受ける。

7. 統合失調症(精神分裂病)の原因説では、『矛盾するメッセージを変容させる妄想型』『矛盾するメッセージを全受容する破瓜型』『矛盾するメッセージを無視して逃避する緊張型』が仮定された。

ダブルバインド状態は一般的には『意志決定の拘束(不自由)』を伴う『混乱・葛藤・緊張』をもたらすが、それはどんな意志決定や行動選択をしても相手から否定されて怒りや憎悪の感情を向けられることになるからだ。しかし、コミュニケーションに参加しているメンバーが、ダブルバインド状態のコンテキスト(文脈)を『本気の攻撃や威嚇ではない』と認識していれば、そこに『遊戯・ユーモアの可能性』が生まれてくる。

演劇的な芸術の面白さは、ダブルバインドを創造的・生産的に応用して作られるものであり、『劇中劇』のように現実の中の現実をファンタジックに演出するのである。現実的メッセージの裏には本当の意図を示すメタメッセージがあるのであり、その『現実の重層性』を理解することによって芸術的な表現や大人の遊戯の中にユーモアを見出すことができるようになる。



posted by ESDV Words Labo at 10:19 | TrackBack(0) | た:心理学キーワード | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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