青年期精神医学と青年期平穏説
青年期精神医学(adolescent psychiatry)とは、『青年期の発達課題・社会適応(学校適応+職業適応)』や『青年期に発症しやすい精神障害の診断・治療』を専門的に研究する精神医学の分野である。思春期の発達課題や心理的障害(不適応問題)を中心に研究する『思春期心理学・青年心理学』という分野もある。青年期精神医学や思春期心理学に基づいて、青少年(10代半ば〜20代前半)の心理的問題の外来診療を行っている心療内科や精神科のクリニックでは『思春期・青年期の専門外来』を設けているところもある。
しかし、青年期の環境不適応やアイデンティティ拡散の問題を丁寧に取り扱ってくれる病院・クリニックは少なく、『臨床心理学・対人援助(カウンセリング)・家族関係・学校教育・精神保健福祉』などの総合的な取り組みによって青年期の悩み・問題に対応している。12歳〜18歳頃の思春期は、“陰部の発毛・男性の声変わり・筋肉や乳房など体型変化・生理(初潮)・精通”など『第二次性徴』によって始まるが、思春期は子どもから大人に移行する中間期(過渡期)で『身体の発達』と『精神の発達』のバランスが崩れやすい時期でもある。
体型性格理論を構築したエルンスト・クレッチマーは、思春期を『自意識・内省・葛藤』の強化によって自己アイデンティティが拡散しやすい時期と定義し、思春期は進路選択(社会的アイデンティティ)や人間関係(異性問題)で深く悩みやすいという『青年期危機説(adolescent crisis)』を主張した。クレッチマーの思春期危機説とは反対に、思春期は外部社会のストレスを受けにくい時期であり、固定的で親密な友人関係の中で充実した学校生活を安定的に送りやすいという『青年期平穏説』という考え方もある。
思春期〜青年期が自己アイデンティティやメンタルヘルス(心の健康)にとって危機的な時期なのか安定的な時期なのかを断定的に語ることはできず、思春期・青年期が安定して充実しているか否かというのは個人差が極めて大きい。大人(成人)になってから思春期を振り返ってみて『あの時は学校に行って友達や彼女と遊ぶのが楽しかった・仕事やお金などの心配をすることもなくて良かった・大人になってからの生活や仕事のほうが学生時代よりも辛くて大変だ』と思い出す人も少なくないことから、青年期が成人期以降よりも安心できる時期で精神的危機も少ないという『青年期平穏説』にも一定の説得力はある。
思春期(中学生・高校生)の心理的問題の多くは『自我意識の肥大・理想自我への執着』と『社会的な役割期待・現実原則と規範性』との葛藤であり、『学校生活・親子関係・友人や異性との関係・進路選択』などを巡って様々な不安・混乱や欲求不満、自己批判(他者批判)が生まれてきやすい。学校生活では『生徒の承認欲求・自己顕示的な自意識』と校則や勉強、教師の指導との間で対立が起こりやすくなり、学業不振や教師への不信、友人関係の不仲が起こると学校生活に適応できなくなることもある。

