シャーロッテ・セルバーのセンサリー・アウェアネス(感覚的な気づき)
カウンセリング技法はその作用機序に注目して分類すると『支持技法・洞察技法・作業技法(表現技法)・認知行動的技法』に大きく分類することができる。カール・ロジャーズのクライエント中心療法(来談者中心療法)に基づく一般的なカウンセリングは、クライアントの不安定な心理や傷ついた感情を共感的に支えて行く『支持技法』の原理に基づいている。『洞察技法』というのは力動的心理学である精神分析に代表される技法であり、自由連想や夢分析などによって自分の内面にある『今まで気づかなかった感情・感覚』に気づかせようとする技法である。
『作業技法(表現技法)』というのは、クライアントの無意識的な葛藤やトラウマなどを『自分の作品・制作活動』に投影させてカタルシス(感情浄化)の効果を得ようとする技法で、遊戯療法(箱庭療法)や音楽療法などの技法が知られている。『認知行動的技法』というのは、非適応的(悲観的)な認知・行動を変容させる認知療法や認知行動療法のことであり、最近ではエビデンス・ベースドな心理療法(統計的根拠のある心理療法)として大きな人気を集めている。
体感的・感覚的なボディ・ワークを中心とするセッションを実施したシャーロッテ・セルバー(C.Selver, 1901-2003)は、『センサリー・アウェアネス(sensory awareness)』という概念を提唱したが、センサリー・アウェアネスというボディ・ワークの概念を初めて使用したのはドイツのエルザ・ギンドラー(1885〜1961)である。センサリー・アウェアネスは『体験的・感覚的な自分に対する気づき(洞察)』を作用機序とする洞察技法の実践法であり、『言語的なコミュニケーション』よりも『身体的な感覚に対する気づき』のほうがクライアントの症状改善(問題解決)に役立つという前提を持っている。
身体の感覚や内面の変化、自分の状態に対する気づきを優先して内観のワークに取り組むことから、センサリー・アウェアネス(感覚的な気づき)は『ソマティック・セラピー(身体感覚に働きかける心理療法)』と呼ばれることもある。センサリー・アウェアネスのボディ・ワークでは、自分自身の身体感覚、自分の持っている内的資源(リソース)、自分が本当に受け取っているモノ、自分が問題に対してどのように反応しているか、自分自身の本当の欲求(衝動)について自己洞察していくが、『知的な理解』ではなく『感覚・情感を伴う気づき』を大切にしている。
こういった人間の身体感覚や内的知覚にフォーカスしていく技法上の発想は、ユージン・ジェンドリンの『フォーカシング』の技法とも共通している部分があるが、シャーロッテ・セルバーは『無意識の意識化』を言語活動によって成し遂げようとしていた当時の著名な精神分析家にも大きな影響を与えている。精神分析家のオットー・フェニケルやウィルヘルム・ライヒは『言語的な洞察・探求』を超えた『直接的な身体感覚の重要性』に気づき、『自由からの逃走』などの著書を書いて社会心理学者としても有名なエーリッヒ・フロムも、シャーロッテ・セルバーの教育を受けていた時期がある。
アラン・ワッツの紹介を受けたシャーロット・セルバーは、人間の潜在能力の開発や人間の精神世界の研究のために設立されたカリフォルニアの『エサレン・インスティテュート』で研究・教育を行うようになり、1963年にはセルバーが世界初のボディ・ワークの技法を活用した『体験型ワークショップ』を開催した。ゲシュタルト療法の創始者として知られるフリッツ・パールズとローラ・パールズの夫妻も、シャーロット・セルバーからセンサリー・アウェアネスの理論と実践の教えを受けており、ゲシュタルト療法には身体感覚や感情の気づきを活かした体験技法が多く導入されている。

