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2009年04月13日

[J.ヘイリーの戦略派家族療法(strategic family therapy)]

J.ヘイリーの戦略派家族療法(strategic family therapy)

MRIで研究された家族療法にはさまざまな学派の技法があるが、『戦略派(strategic group)』に分類されるジェイ・ヘイリー(Jay Haley)『家族成員の内面的洞察・人格的成長』よりも『現在の問題の解決・症状の緩和』に力点を置いて家族カウンセリングを行ったことで知られる。MRI(Mental Research Institute)は家族療法の中心的な研究機関であったが、J.ヘイリーやJ.H.ウィークランド、D.D.ジャクソンらがMRIの創設に関わっていて、『家族間のネガティブな相互作用・問題状況を維持する家族システム』を改善するための家族療法(家族システム論)の研究が行われていた。

カリフォルニア州パロアルトにあるMRI(Mental Research Institute)の理論的基礎は、文化人類学者グレゴリー・ベイトソン(G.Bateson, 1904-1980)が提示した『二重拘束理論(ダブルバインド理論, double bind theory)』と催眠療法の大家として知られるミルトン・エリクソン『短期療法(ブリーフ・セラピー)』にある。ベイトソンの二重拘束理論(ダブルバインド理論)とは、相互に矛盾(対立)する二つのメッセージを同時に受け取ることによって、強烈な精神的緊張・不安を伴う『葛藤』が発生するという理論であり、戦略派の家族セラピストであるJ.ヘイリーはこの『葛藤』を効果的に家族療法に用いた。

ミルトン・エリクソンはカウンセリングのセッションで『言語的暗示』『非言語的暗示(イメージや音による暗示)』を的確に用いて、クライアントの行動・発言をアンカリングする天才的な催眠療法家であったが、M.エリクソンの催眠療法の技術や短期療法(ブリーフ・セラピー)の面接構造も家族療法の戦略派に大きな影響を与えている。戦略派の家族療法の最大の目的は、『現在の症状を取り除くこと・現在の問題を解決すること』であり、家族ひとりひとりの価値観の変容や人格(性格)の成長といったことには深入りしない傾向がある。

その為、『過去の家族関係の軋轢(いさかい)』や『家族成員のパーソナリティ(性格傾向)』を戦略派の家族療法で直接的に話題にすることは殆ど無く、『今・ここにある問題(症状)』を解決していくためには家族成員がどのように行動すれば良いのかということに重点を置いている。コミュニケーション分析を『現実的な問題解決』に結び付けていく『戦略派』に分類されている家族療法家には、J.ヘイリーやJ.H.ウィークランド、P.ワツラウィック、R.フィッシュ、L.シーガルなどがいる。ミラノ派のM.S.パラツォーリも戦略派に含められることがあるが、『精神症状や問題行動によって他の家族成員をコントロールしようとする』という“家族操作の症状理解”の元に家族カウンセリングを進めるという特徴がある。

『家族療法の戦略派とは何なのか?』という定義を簡単にすることはできないが、基本的には『現在志向・問題解決志向・対人関係重視・行動の変化重視の技法』として定義することができ、二重拘束理論(ダブル・バインド理論)に基づく『家族システムの悪循環』を断ち切るアプローチを多面的に行っていくことになる。戦略派のJ.ヘイリー『どうすればクライアントを良い方向に変化させられるのか?』について実践的な技法を打ち立てた。

ヘイリーは、治療抵抗を低下させるために意図的に『精神症状・問題行動を強化したり再現したりするような指示』を与えたが、この技法は『逆説的指示療法』として知られている。家族間の問題や症状をわざと『反復・再現・強化するような指示』を与えると、『IPである家族成員(患者と見なされている家族)』は、なぜかその問題行動(症状)を維持することが難しくなり、結果として『現在よりも適応的な家族関係』の形成に役立ってくるのである。

母親が『子どもの生活態度・学習状況』に対して厳しく注意すると、子どもが怒ったりいじけたりして逆に生活習慣が乱れたり勉強をしなくなったりすることがある。ヘイリーの逆説的指示技法では、『母親の注意の回数を減らしたり無くしたりする指示』を与えて子どもの反応をチェックしながら適切な治療的介入を行っていくことになるが、『まだ寝なくても良いという発言・うるさく勉強しろと強制しない態度(いつもとは違う母親の態度)』によって子どもの反応・行動に何らかの良い変化が起こってくる可能性がある。

家族療法で家族成員の言動を変化させるエッセンスとして、『今までとは違うアプローチを取って貰うこと・自分が相手に与える影響の質を改善的に変えていくこと』があり、家族療法を実施する心理臨床家は『家族間のコミュニケーションの相互作用の内容』を正しく理解しておかなければならない。

posted by ESDV Words Labo at 19:20 | TrackBack(0) | せ:心理学キーワード | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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