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2009年04月21日

[操作的定義(operational definition)と心理学研究の科学性]

操作的定義(operational definition)と心理学研究の科学性

操作的定義(operational definition)とは、“客観性・検証可能性”を持つ科学的研究や論文作成を行うために、『概念(concept)』を分かりやすく明確に定義することである。現実世界にある事象(事物・状況)を言語化した『概念』には“多義性・曖昧性”があるので、このままでは『研究者間の共通言語』として機能せず、曖昧で多義的な概念を科学的研究(実験・観察・統計・論文作成)に利用することが出来ない。

臨床心理学や精神分析には『不安症状・不適応・無意識・超自我・自我防衛機制・リビドー・ストレス』など多種多様な操作的定義があり、それぞれの概念や専門用語の明確な定義を知っていなければ、研究者間でも生産的な内容のあるコミュニケーションを行うことは難しい。

不安症状(不安感)の操作的定義には、心悸亢進・発汗・過呼吸など『生理学的状態』による定義もあれば、漠然とした将来や社会生活に対する恐れの感情のように『言語化される心理状態』による定義もあるが、科学的研究を行う場合にはどちらかの定義に統一して観察や調査面接を行わなければならない。

精神分析で使う“無意識”という概念も、『道徳的・社会的に容認されない本能的欲求や性的妄想が抑圧される領域(善悪の区別がない原始的本能であるエスが渦巻いている領域)』『本人がその内容を意図的に想起することができない心の深奥の領域』という形で操作的に定義されている。しかし、精神分析で操作的に定義された概念の多くは、精神分析家の臨床経験や理論構成に基づく『恣意的・推測的な概念』なので、厳密には客観的に他者と共有できる科学的概念とまでは言うことが出来ないだろう。

精神科医(心療内科医)が精神疾患の診断・分類に用いることが多い『DSM-W』や『ICD‐10』の診断基準の項目(各症状・各特徴の記述)も、操作的定義によって作成されたものである。操作的定義を行うことの実質的意義は、『曖昧性・多義性を持つ概念』に対する混乱や誤解を事前に防ぐことであり、『ある概念』『他の概念』とを明確に分かりやすく区別して仮説理論を検証可能な実験環境を整えるということである。

一般に、W.ヴント(1832-1920)がライプチヒ大学に心理学実験室を開設(1879年)して研究した『実験心理学』が、科学的心理学の始まりと言われることがある。しかし、ヴントの実験心理学の研究法は、他者が客観的にその内容を観察できない『内観法』だったので、内観法に基づくかつての実験心理学は十分に科学的心理学の要件を備えているとは言えない。

心理学分野における科学的客観性や実証的研究法の普及は、J.B.ワトソンやB.F.スキナーに代表される『行動主義心理学』の発展と呼応しているが、最近は臨床心理学においてもエビデンス・ベースドな技法の科学的研究法が模索されている。

posted by ESDV Words Labo at 11:25 | TrackBack(0) | そ:心理学キーワード | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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