V.E.フランクルの『創造価値・体験価値・態度価値』と創造性テスト
ナチス・ドイツの強制収容所アウシュビッツで生き残ったV.E.フランクル(V.E.Frankl, 1905-1997)は、人生の意味や人間の価値を哲学的に探求する実存療法(ロゴセラピー)を創始し、絶望的環境における希望の可能性を示した代表的著作『夜と霧』を書いた。実存療法の治療機序の中核にあるのが、自分固有の一回性の人生をどのように生きるのかという『価値承認の認知』であり、フランクルは“人間の価値(生きる価値)”について3つのカテゴリーを提示している。
V.E.フランクルは人間にとって不可避な運命として『不治の病・政治的弾圧・感覚的苦痛・宗教的罪責・死』などを想定していたが、内面の自由を獲得して価値実現を志向する態度を貫くことで、それらの絶望的な運命さえも克服できると考えた。フランクルが著書『死と愛』の中で指摘した3つの人間の価値(生きる価値)のカテゴリーが、『創造価値・体験価値・態度価値』である。
創造価値(creative value)……新たな行動や活動をして何かを創り出していく価値。自分の人生に課せられた役割や使命、目的に自覚的になり、新たな何かを創造して成し遂げる価値。
体験価値(experience value)……『芸術・自然・学問・人間関係』など素晴らしく感動的な体験をする価値。
態度価値(attitude value)……自分の実存的な固有の人生を『運命』として受け容れて最期まで生き抜く態度に宿る価値。自分の人生の所与の条件を受け容れて、何らかの価値を実現しようとする真摯な態度。
創造性(creativity)とは、新たな価値あるものや新規で有用なアイデアを生み出す能力であり態度である。創造性に関係する価値あるものを生み出す能力を『創造力』といい、創造力はテクニカルな価値を生み出す手段としての『創造的技能』と新たな発見や探求に向かって思索できる『創造的思考力』とから成り立っている。新たな価値ある事物やアイデアを生み出そうとする『創造的態度』は、性格心理学では人格特性の一つとして研究されることがあり、『自発性・独創性・独自性・柔軟性・衝動性・知的好奇心・新規性・集中力・自己統制力』などの特性から成り立っていると考えられている。
『創造力・創造性』は人間の知的能力の一種と考えられており、創造性を客観的に測定することを目的にした心理テスト(心理検査)として『創造性テスト(creativity test)』がある。一般的な知能(知的能力)は、特定の方向性や課題に向かって思考を集中させる『収束的思考』として理解されているが、創造性は多種多様な方向性を持つ価値ある想像力やインスピレーションによって実現する『発散的思考』として理解されている。
創造性テストには知能テストのような『単一の正しい答え』は用意されていないので、一般に創造性テストと学力テストの成績との相関関係は、一定の相関はあるものの弱くなっている。創造性を構成する属性・要素としては、『流暢性(思考のスピード),柔軟性(アイデアの幅広さ),独創性(アイデアの独自性),具体性(アイデアの具体性・実用性)』の4つが想定されている。