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2009年05月13日

[H.ウェルナーの相貌的知覚(physiognomic perception)と認知機能の発達段階]

H.ウェルナーの相貌的知覚(physiognomic perception)と認知機能の発達段階

人間の知覚(perception)は『感覚的・自己中心的な知覚』から『理性的・客観的な知覚』へと発達していくが、“2〜4歳頃までの幼児”は自己と他者(外界)との区別が曖昧であり、『自己の内的な表象・感情』を外界に投影して知覚するという特徴を持つ。その為、乳幼児の知覚は『生命・精神(感情)を持たない無機的な事物』にも生命や精神(感情)の存在を投影的に見出すことがある。こういった自己の感情や欲求を外界に投影して、無機物に『生命・表情・感情・精神』を見出すような知覚のことを『相貌的知覚(physiognomic perception)』と呼ぶ。

相貌的知覚の分かりやすい事例としては、子どもが拾ってきた石に顔を描いて擬人化したり、人形や無機的な事物に生命・気持ちを投影的(感情移入的)に見出して『人形の○○ちゃんが痛がっている・庭のお花が淋しがっている』と話したりすることがある。無機的な事物に顔や心を見出す相貌的知覚は、原始的宗教感情である[アニミズム(精霊崇拝)の誕生]とも関係しているが、森羅万象の事物に生命や精神、聖性を見出す感受性は大人になってもある程度は残っていることがある。

相貌的知覚は心理学者のH.ウェルナー(H.Werner)が提起した概念であるが、自我が弱く自他未分離な発達早期には『生きていないもの・無機的な事象・身近にある慣れ親しんだもの』に主観的で感情的な投影(感情移入)を起こしやすいのである。自然崇拝の繊細な感受性を生み出すアニミズムは、資本主義で運営される現代の物質文明社会ではかなり弱まってきているが、最近は『エコロジー思想・地球環境保護・省エネ省資源』の影響などによってアニミズム的な自然と共生する価値観が見直されてきている側面もある。

経済優位の現代社会でも、自然の豊かな田園・森林地域で『大木・巨岩・滝・森林・湖沼』などを見ていると、そこにある種の神聖性や清浄性といった神秘的な感覚(超越的な精神・霊性の存在)を感じることがあるが、これは『相貌的知覚・アニミズム・自己中心性の知覚』の影響を受けていると考えられる。もちろん、ここでいう『自己中心性』とは自分さえ良ければいいという『利己主義・排他主義』のことではなく、ジャン・ピアジェの[思考発達論(認知発達論)]でいう『前操作的段階=自己中心的段階(2〜7歳頃の認知の発達水準)』のことである。

スイスの心理学者ジャン・ピアジェの思考発達論では、『感覚‐運動期(0〜2歳頃)→前操作期(2〜7歳頃)→具体的操作期(7〜12歳頃)→形式的操作期(12歳以上)』という発達段階を経験して、『概念(表象)を操作する抽象的・論理的・客観的な思考(認知)』ができるようになると定義されている。『感覚‐運動期(0〜2歳頃)』では、五感の感覚や身体の運動によって直接的(体感的)に外界の事物に触れて認知(思考)している。『前操作期=自己中心的段階(2〜7歳頃)』になると、事物を幻想的な主観的イメージによって知覚する『象徴的思考』や事物を簡単な言葉や見たままの姿で直観的に考える『直観的思考』が出来るようになる。

前操作期(自己中心的段階)の発達段階では、まだ自己と他者(外界)の区別が曖昧な部分が残っており、『直観的思考』は基本的に自分の立場や心理からのみ行われるという『自己中心性』の特徴を持っている。自己中心的な直観的思考では『他人の心情(他人の立場)・客観的な事象』を考えることが難しく、自己の内面にある感情や欲求を外界にそのまま投影する防衛機制が働きやすくなる。その結果として、無機的な事物にも子どもの感情や欲求が投影されて、H.ウェルナーのいう『相貌的知覚』が発生しやすくなるのである。

自分の立場や視点からしか物事を考えられない『認知・知覚の自己中心性』は、精神発達と共に弱まっていき、『脱中心化(認知の客観化)』という現象によって、他人や社会の立場から物事を論理的・客観的に考察することができるようになる。思考機能が客観的・合理的になっていく脱中心化は、『具体的操作期』から始まって『形式的操作期』において完成するが、高度な人間の思考機能は表象・概念を自由に操作する論理的思考へと行き着くことになる。しかし、他者や社会の視点から物事を観察して、科学的合理性に基づく論理的操作ができるようになると、素朴な自己中心性の投影に根ざした相貌的知覚を実感することが極めて困難になるのである。

posted by ESDV Words Labo at 21:02 | TrackBack(0) | そ:心理学キーワード | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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