代理感情・交流分析のラケット
エリック・バーンが開発した交流分析(TA:Transactional Analysis)では、相手の存在を認知する情緒的刺激(反応・態度)のことを『ストローク(stroke)』と呼ぶ。ストロークには、受け取ると心地良くなる『正のストローク』と受け取ると不快になる『負のストローク』とがあるが、正のストロークは自分の存在や言動を肯定するような作用を持つストロークである。正のストロークとして作用する言動・態度には、『共感・肯定・賞賛・慰め・同情・支持・愛情・好意』などさまざまなものがある。
負のストロークとして作用する言動・態度には『否定・非難・批判・罵倒・反対・攻撃・悪意・無視』などさまざまなものがあるが、負のストロークのことを『ラケット(racket)』という交流分析の専門用語で呼ぶことがある。ラケットは自分が感じている本当の感情ではない『代理感情』と関係していることがあり、自分が表現したり伝達したい本当の感情を抑圧して代替的な感情を表出する時に『ラケット(不快なストローク)』が発生しやすくなるのである。
代理感情というのは本当は『怒り』を感じているのに、『怒りを表現することは罪深い・恥ずかしい』という自己認知(価値認識)があるために、『怒り』ではなく『悲しみ・愛想笑い』の感情を表現してしまうようなことを指している。本当は涙を流して泣き叫びたいくらいの強い『悲しみ・孤独』を感じているにも関わらず、代理感情として『笑顔・余裕のある表情』を表現してしまうこともあるが、代理感情が形成される要因には『幼少期からの教育・感情体験』や『帰属社会におけるジェンダー(男らしさ・女らしさと関係する感情表現)』などがある。
F.イングリッシュ(F.English)は、喜怒哀楽や情緒的コンプレックスを含むあらゆる感情が代理感情になると述べた。『悲しむべき状況で笑っている』など場違いで不可解な印象を与える代理感情には、『その人に共通した特定の反応様式』が見られることが多く、その人の無意識的コンプレックスやトラウマティックな体験と関係していることもある。場違いな代理感情を表現し過ぎることによって、アレキシシミアと呼ばれる自分の本当の感情を認識できず言葉にすることができない症状を発症することもある。

