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2009年07月21日

[トリックスターとユング心理学の元型:既存の社会秩序の破壊と再建]

トリックスターとユング心理学の元型:既存の社会秩序の破壊と再建

普遍的無意識を前提とする分析心理学を創設したC.G.ユング(1875-1961)は、神話・伝説・昔話などの定型的パターンとして表現される人類に共通する普遍的無意識の内容・象徴を『元型(アーキタイプ)』と呼んだ。

『元型』の各種のイメージは、人間の精神機能(思考・感情)を大枠で規定する根源的な作用力を持っており、夢や妄想幻覚、神話・伝承といった形をとって人間の内的世界の活動や行動の動機づけに影響を及ぼしているのである。異性に対して抱く欲求や羨望にも、『アニマ(男性の中の女性像)・アニムス(女性の中の男性像)』の元型が影響しているとされるが、人間のパーソナリティや理想像といったものにも『元型のイメージ・情動・物語性』が関係している。

既存の社会秩序や伝統権威、権力者を風刺して冷笑したり、狡知や策略を用いて人心を惑わしたりするキャラクター(人間・動物)は、神話や昔話に数多く登場するが、C.G.ユングはこういった悪戯者や道化師を『トリックスター(trickstar)』という元型の象徴であると解釈した。

構造主義の文化人類学の研究者として知られるクロード・レヴィ=ストロースは、神話分析の方法論を用いて既成秩序や知の体系を組み替えるトリックスターについて言及している。トリックスターは基本的に『弱さ・無力・のろま・貧しさ』などを表象するが、トリックスターが強力な権力者や支配的秩序に立ち向かう武器は『機知・狡知・策略(計略)・いたずら(秩序の混乱)』である。

文化人類学者のラディンは、北アメリカのインディアンの伝承・物語で、コヨーテやウサギ、ワタリガラスといった比較的弱い動物が、既成の支配権力や社会秩序をひっくり返すトリックスターの役割を果たしていることを発見した。それら以外にも、キツネ、リス、カメ、ネズミ、クモなどがインディアンの伝承の中で社会的権威や秩序構造を転覆するトリックスターとして扱われており、時に社会集団に『火・道具・食料(農業)』をもたらした文化的英雄としてトリックスターが位置づけられていることもある。

トリックスターが支配構造や社会的権威に対抗する手段は、いたずらや悪事、煽動の弁舌、反道徳的な振る舞い、嘘つきなどである。一見すると、トリックスターは反社会的で非倫理的な悪い存在に見えるのだが、トリックスターが『既存の社会秩序・常識的価値観・権力者・権威的風習』などを風刺(軽視)して否定してくれることで、社会は新たな発展や改革のきっかけを得ることができるのである。

トリックスターというのは、社会的弱者であり風変わりな人(変人)であり、身分の低い被差別者であり異端思想の持ち主であるが、社会の中心にある『権力・権威・常識』に様々な計略や悪ふざけを用いて挑戦して、それを破壊して変革しようとする本質を持つ。

トリックスターによって『旧態的な秩序・常識・規範(保守的な権威構造)』が軽快な笑いや批判と共に解体されていくが、トリックスターが果たす象徴的な役割は『既存の社会秩序や権威構造の破壊と再構築』であり、旧来の秩序が破壊された後には、より機能的な新秩序が再構築されていくことになる。

ユング心理学(分析心理学)について興味のある人は、[S.フロイトの“死の本能(death instinct)”とC.G.ユングの“死と再生の元型”][ユングのタイプ論(性格分析)における外向性(extroversion)と内向性]の記事も参考にしてみて下さい。

posted by ESDV Words Labo at 13:02 | TrackBack(0) | と:心理学キーワード | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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