ウェブとブログの検索

カスタム検索





2009年09月03日

[男根期性格(phallic character)と男根羨望(penis envy):男性中心社会とフェミニズムの影響]

男根期性格(phallic character)と男根羨望(penis envy):男性中心社会とフェミニズムの影響

男女の性差(sex and jender)を自認し始める男根期のエディプス・コンプレックスでは、男児は『去勢不安』を感じるのだが、女児のほうは『男根羨望(phallic envy)』を感じることがある。男根羨望というのは自分の身体にペニスが無いと気づいた女児が、男性優位社会における権力や指導力のメタファーである『ペニス』に羨望や劣等感、反感を覚えるというものであるが、この男根羨望の概念・発想は、S.フロイトが生きていた19世紀ヨーロッパの『男性中心主義(男権社会における男尊女卑的な風潮)』の影響をかなり受けている。

20世紀半ばまでは、男尊女卑の社会的遺制・道徳が数多く残っており、社会的に権力や影響力を持っている『性』として『男性性・権力的な男根のメタファー』が認識されていた。男根に権力や指導力、影響力の源泉を読み取る心理的特性を『男根優位』と呼び、前近代的社会では軍事力や社会的地位と結合した男根優位の感受性が『男権社会・男性優位主義』を支えていたと考えられる。

しかし、20世紀後半以降の先進国では、『フェミニズム(女性主義・女権拡張)』『産業構造の頭脳労働化(知識経済の発達)』の影響もあり、女性の高学歴化・社会進出や男女同権の環境整備(男女共同参画社会)が急速に進んだという現実がある。男根期にある女児の『男根羨望』には、『初めにあったはずの男根が奪い取られたという去勢感覚』を感じるものもあれば、『これから大きくなれば男根が生えてくるというペニスの発達感覚』を感じるものもあるが、男根羨望の持つ現代的意義としては、実際の性別とは関係の無い『社会的権力への憧憬・反発・劣等感』に集約されてくるだろう。

男性中心主義(男性社会)の影響を受けた『男根羨望』の欲求・段階への固着(fixation)が起こると、『女性性の拒絶・男性への劣等感・男性性への無理な同一化』といった性格形成や価値観の確立の問題が起こってくることがある。

S.フロイトのリビドー発達論では、精神発達が停滞して各発達段階への『リビドーの固着・退行』が起こることで、特徴的な性格傾向や思考・行動パターンが決定されてくると考える。トラウマや欲求の過剰など精神発達を阻害する何らかの要因があって『男根期』にリビドーが固着すると、『男根期性格(phallic character)』という性格構造や思考・行動パターンが形成されることになる。

『性の解放』を理想とする性欲理論を呈示したウィルヘルム・ライヒ(Wilhelm Reich, 1897-1957)は、男根期的自己愛性格で男根期性格の特徴やその問題点を記述した。男根期性格は『情緒不安定で未熟なヒステリー性格』『異性愛を確立できる成熟した性器的性格』の中間段階にある性格構造であり、自己と男根(社会的権威)を同一化することによって生まれる『無根拠な自信・自己愛の過剰・権力への欲求』に特徴がある。

男根期性格に特徴的な性格行動パターンとしては、『外向的な行動力(活動性)の高さ・尊大な自信家・派手な異性関係(多婚的な浮気性)・自己顕示欲求の強さ・権力志向(虚栄心の強さ)・共感性の欠如』などがある。

男根期性格とは、『自己中心的な世界観』を持ち他人よりも優越したいという『自己愛(誇大的な自己像)』の強い性格類型であり、権力や成功、承認を手に入れようとする活発な行動力を持っている。自分の価値や能力に対する『自己確信(自信)』は非常に強いのだが、その価値や能力を証明できるような根拠・実績は持っていないことが多く、無根拠な自信や自惚れによって他者を侮蔑したり軽視するような傲慢な態度を取ることがある。

男根主義的な『権力(権威)への欲求』や多くの異性を手に入れようとする『性的な欲求・異性に対する承認欲求』が強く、自分の男性(女性)としての魅力や優秀さを誇示・喧伝するために不特定多数の異性と関係を持ちたがる側面がある。男根期性格は、幼児的な自己中心性や本能的な支配欲求(権力志向)に根ざした性格傾向である。『他者の尊厳・心情』に対する想像力や共感性が欠如していることが多いのだが、自分の弱さや劣等性を認めることが出来ないので、しばしば『他者に対する攻撃性・憎悪感情』が前面に出てくることがある。

他者の権利や心情を無視した『自己中心的な権力欲・支配欲・優越感(無根拠な自信)』が目立つ男根期性格は、現代精神医学(精神病理学)の標準的な障害分類・診断基準として利用されているDSM‐W−TRでは、『自己愛性パーソナリティ障害』に近似する性格特徴を持っている。



posted by ESDV Words Labo at 12:21 | TrackBack(0) | た:心理学キーワード | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

この記事へのトラックバック