うつ病と朝刊シンドローム(morning newspaper syndrome)
『退却神経症』や『軽症うつ病』の著書がある精神科医・笠原嘉(かさはらよみし)が、うつ病の“朝の時間帯の気分障害(抑うつ感)”を説明するために用いた造語が『朝刊シンドローム』である。精神医学的には、うつ病(気分障害)の『日内変動(にちないへんどう)』のことを意味する言葉である。
うつ病(大うつ病)に特有の日内変動というのは、朝の時間帯に『抑うつ感・気分の落ち込み・億劫感・意欲減退』といった精神症状が発生するが、夕方以降の時間帯にはそういった精神症状が和らいでくるという一日の時間帯における『気分の周期的な変化』のことである。同じうつ病の患者でも、どの時間帯に気分が良くなってどの時間帯に調子が悪くなるのかには個人差がある。特に、大うつ病性障害ではない『非定型うつ病』の場合には、『朝に気分が良い・夕方から悲哀感情や憂うつ感が増してくる』というタイプの日内変動が見られやすい。
うつ病の日内変動が起こる原因は、脳内のセロトニン系・ノルアドレナリン系の神経伝達過程の障害だと考えられているが、いつもより早起きしたり軽い散歩・体操などの運動をしたりすることで日内変動による朝の時間帯の不快な気分を改善できることもある。
朝刊シンドロームという用語は現在ではほとんど用いられることがないが、朝起きた時に『朝刊の紙面・ニュース』を興味を持って読めるかどうかによって、その人の心理状態や気分の変化を推測できるというものである。習慣的に毎朝、朝刊の新聞を読んでいる人が、急に朝刊のニュースに興味を持てなくなったり、新聞の文字を集中して読むことが辛くなったりした時には、精神的な疲労の蓄積やうつ病の初期症状としての『抑うつ感・意欲減退』が疑われるのである。
新聞の朝刊を読むという行為には、『一定の集中力・思考力・興味関心の強さ』が要求されるので、今まで普通に興味を持って読んでいた朝刊が読めなくなる(読みたくなくなる)という時には、『思考力の低下・集中力の低下・興味や喜びの喪失』といったうつ病に特徴的な症状が起こっている可能性が高くなる。現在(2009年)では、インターネットの新聞サイトやニュースサイトを、携帯電話(スマートフォン)のブラウザでチェックする人も増えているが、朝起きた時に何の興味関心も湧かず気分がどんよりと落ち込んでいる時には精神状態が少し悪くなってきていると推測することができる。
紙の新聞・ニュース系のウェブサイトを読まないという人や昼夜逆転の生活リズムになる夜勤の仕事をしているという人もいるので、すべてのうつ病の初期症状を朝刊シンドローム(日内変動)で予測することはできないが、うつ病の早期発見のための一つの指標として役立てることができる。