ニーチェの哲学思想の読解1:“ルサンチマン”と“力への意志”
フリードリヒ・ヴィルヘルム・ニーチェ(Friedrich Wilhelm Nietzsche, 1844-1900)の著作・思想は、弱者の強者に対する怨恨である『ルサンチマン』を克服しようとする『生の哲学(超人思想)』として理解することができる。
ニーチェにとって形而上学的な真理やキリスト教的な道徳(善悪)は、“人間の生命力・高貴さ”を衰退させる悪しきものであり、弱者を肯定して強者を否定する“価値判断の転倒(自然な認識の欺瞞)”であった。
大衆的なルサンチマンとは簡潔に言えば、自分よりも優れているように見える『美しい者・強い者・裕福な者・知性のある者』をその地位から引きずり落とそうとする嫉妬や怨恨の衝動であり、最大多数の社会的弱者を肯定するために社会道徳が捏造されることになる。
ニーチェは人間の普遍的な本能として『力への意志(権力への意志)』を置いたが、これは単純に政治的・社会的な権力を目指そうとする意志ではなくて、『より優れた自己・他者よりも優位な特性を持つ自己』を目指そうとする向上心(上昇志向)を伴う意志のことである。
ニーチェは伝統的な“愛”に基づくキリスト教道徳として、大衆に定着していた『弱く貧しき者よ、幸いなれ(強く豊かな者は天国から遠ざかる)』という価値観を強く反駁して、『天国・地獄の仮想的な表象』はルサンチマンを肯定するための死後の世界の捏造に過ぎないと断じた。
ニーチェの『ツァラトゥストラはかく語りき(ツァラトゥストラはこう言った, 1885年)』によって、道徳的な善悪観をメタレベルで規定していた『神の死(奴隷道徳の終焉)』が宣言されることになる。理性的・科学的・経済的な『近代社会』が到来したことで、弱者を救済し強者を道徳的に非難する『神』が死ぬことになり、絶対的な価値観を主張できない『ニヒリズム(虚無主義)の時代』が幕を開けたのである。