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2010年03月26日

[パルマコン(ファルマコン, pharmakon)と批判精神・創造性]

パルマコン(ファルマコン, pharmakon)と批判精神・創造性

古代ギリシア神話には『パルマケーの泉』というものがあるが、パルマケーの泉の水はこの世のものとは思えないほどに美味しく、誰もがその水を飲みたい欲求に逆らえないとされる。しかし、その欲求に従ってパルマケーの泉の水をゴクゴクと飲んでしまうと、泉の中に引き込まれてしまいその生命を落としてしまう。

パルマケーの泉は『魅惑・美味』『死』という両義的な存在であり、パルマケーは『パルマコン(pharmakon, 薬)』という言葉の語源にもなっている。パルマコンは英語の“pharmacy(薬),pharmacology(薬学)”の語源でもあり、病気や怪我を回復させる『薬の意味』と人間を殺す効果を持つ『毒物の意味』の両方を持っているアンビバレンツ(両価的)な概念でもある。

パルマコンは『薬物(正の作用)』『毒物(負の作用)』の両方の意味を含んでいるが、薬そのものにも病気を治癒させる『作用』だけではなくて、様々な副次的な症状(苦痛)を発生させる『副作用』がある。薬(パルマコン)とは本質的に両義的な存在なのだが、パルマコンがメタファー(比喩)として用いられるときには、既存の社会秩序や規範体系を否定する革新的な人間(思想)のことを指し示している。

社会学の『中心と周縁』の二元論的な社会構造でいえば、パルマコンのメタファーは、『周縁』に属して社会の既成秩序や常識観念を反駁しようとする思想家(哲学者)や革命家、知識人のことを意味することになる。パルマコンとしての思想家・変革者は、社会共同体に対して『毒物』のように劇的な破壊作用や混乱状況をもたらすのだが、それと同時に、『薬物』のように社会のクリティカルな問題を指摘したり、危機的状況を脱する方法論を示したりもする。

古代ギリシアの哲学者ソクラテス(B.C.469頃〜399頃)は、産婆法という問答法(討論方法)を用いて他の知識人(ソフィスト)の無知を明らかにしていき、『無知の知』を自覚することを重視した。真理探究と徹底的な議論にその人生を費やしたソクラテスも、都市国家アテナイの既成の常識や価値基準を反駁したパルマコン的存在であり、ソクラテスはアテナイの伝統を破壊する『毒物』であると同時にアテナイの知的向上を促す『薬』でもあったのである。

ソクラテスの後を継いでアカデメイアを開設した弟子のプラトンも、体制批判的な政治思想(哲人政治)などを展開したパルマコンであったが、プラトンの弟子のアリストテレスになると既存の社会秩序や倫理規範を否定するような思想性・変革性が衰えていきパルマコンとしての毒も薄められていく。

パルマコンとはその時代において信じられている中心的価値観や既存の常識観念を効果的に反駁する思想家・知識人であり、天動説を否定して地動説を証明したガリレオ・ガリレイ、意識中心の人間観を否定して無意識に突き動かされるモデルを提示したジークムンド・フロイトなどもパルマコン的存在と言えるだろう。パルマコンは『伝統的な価値観・保守的な世界観』を否定して、『新規な価値観・革新的なモデル』を提示しようとするので、どの時代においても政治権力や宗教権威から迫害・弾圧・排除を受けやすい存在でもある。

パルマコンたる周縁的な人物(マージナル・マン)は、『不合理な伝統・無意味な慣習・理不尽な支配』に対して“闘う精神・批判精神”を有している。そしてパルマコンたる人物は、その毒性として『社会の混乱・人々の不安・常識の崩壊』を呼び起こすが、それと合わせて薬理作用として『社会の改善・理論の刷新・新たな価値基準の確立』を推し進めていくことになる。

posted by ESDV Words Labo at 17:04 | TrackBack(0) | は:心理学キーワード | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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