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2010年04月07日

[反精神医学(anti-psychiatry)とR.D.レイン]

反精神医学(anti-psychiatry)とR.D.レイン

この記事は、[前回の記事]の続きになります。反精神医学の代表的な思想家として、イギリスの精神科医のR.D.レイン(R.D.Laing)デイビッド・クーパー(D.G.Cooper)がいるが、R.D.レインの自叙伝的な位置づけとなる『レイン・わが半生』では病的な心理状態における徹底的な自省・内省が行われている。

レインとクーパーは1965年4月に、反精神医学思想の理想的な治療関係を再現するための宿泊施設である『キングスレイ・ホール』をロンドンに開設した。キングスレイ・ホールでは反精神医学運動で『現代社会の疎外・抑圧』と呼ばれた診断・薬物・権威のすべてが排除され、医師と患者のヒエラルキーの区別さえも相対化されたので、キングスレイ・ホールはクリニック(病院)ではなくてハウスホールド(共同生活施設)に近いものとなった。

キングスレイ・ホールでは『医師・患者・スタッフ』の役割的で権威的な関係性が否定され、患者はあらゆる強制や指示を受けることなく、完全に自由な環境の中で自分のやりたい行動を選択することが許された。R.D.レインは統合失調症の家族研究の成果から『愛情・保護による拘束(抑圧)の弊害』を知ることになり、こういった拘束・強制のない宿泊施設キングスレイ・ホールの着想を得たようだが、レインの反精神医学思想は『人間の解放』というヒューマニスティックな倫理観・人間観に根ざしたものだったと言える。

キングスレイ・ホールによる共同生活で統合失調症の精神病理が回復したわけではなかったが、反精神医学運動がもたらした成果は『狂気−正気の連続性』を意識させたことであり、『精神病理の世界の了解可能性(正常な精神でも異常な精神を理解できるということ)』を示唆したことであった。

狂気に精神疾患のラベリングをして、一般社会から排除(隔離)するのではなく、狂気の心的過程や想像的なイメージに寄り添う努力をしながら、精神病者の社会復帰を支援するスタンスを持つことが大切である。そういったヒューマニスティック(人間主義的)な心理臨床の実践を促進したことが、反精神医学思想が残した功績の一つだと言えるのではないかと思う。

posted by ESDV Words Labo at 07:06 | TrackBack(0) | は:心理学キーワード | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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