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2010年04月07日

[精神分析の反復強迫とタナトス]

精神分析の反復強迫とタナトス

強迫性障害やPTSD(心的外傷後ストレス障害)などで問題になってくる症状に『反復強迫』があるが、反復強迫とは不合理な馬鹿馬鹿しい強迫行為(強迫観念)を反復的に繰り返す症状である。S.フロイトが創設した精神分析では、反復強迫は『抑圧・否認された幼児期の心的外傷』が繰り返されていると解釈するが、患者本人は幼児期の心的外傷(過去の不快な記憶)を思い出すことはできないとされる。

反復強迫の根本的な原因は『抑圧された過去の外傷体験・外傷記憶』とされるが、“抑圧・否認・合理化”といった自我防衛機制によって、その外傷的な記憶を本人は想起することはできない。

更に、本人は『合理的な理由・心理的な動機づけ』があって、その強迫行為を繰り返していると考えていることが多いので、反復強迫を精神的な病理の現れとして認識していることは少ないのである。反復強迫は『苦痛・不快を伴う記憶痕跡の反復(繰り返し)』という現象として症状化するので、精神分析の理論である『快感原則』を反証する症状として理解することができる。

S.フロイトは初期には反復強迫の症状を、『無意識的願望の充足の障害』と解釈したり『現実的な苦痛や不安の回避』と理解しようとしたりしたが、晩年のフロイトは『エロス(生の欲望)』『タナトス(死の欲望)』との中間領域に生起する力動として反復強迫を位置づけた。快楽を求めて不快を避けるという『快感原則(快楽原則)』の彼岸に、万物を自然的な死(無機物)の状態に還元しようとする『タナトス(死の欲望)』が生まれるのであり、タナトスはリビドーの欲動の量をゼロ(静止)に近づけようとするのである。

あらゆる生物は生きて成長・発展しようとする『エロス(生の欲望)』を持っていて、リビドー(性的欲動)の量を増加させようとしているが、熱力学の第二法則(エントロピー増大則)に運命づけられた『熱量の低下=活動の静止・死の到来』を回避し続けることはできず、リビドーの量はタナトスによってゼロに近づけられる。

エロスを減少・停滞させて阻害しようとするタナトスの力動によって、不快で苦痛な過去の体験記憶を繰り返す『反復強迫』の症状が形成維持されるというのが後期フロイトの仮説となり、トラウマティックな反復強迫を治癒させるために『自我機能の強化』が要請されることになるのである。

この反復強迫とタナトスの仮説は、精神分析の心理療法の理論・技法にも大きな影響を与えることになり、『無意識的欲求の分析・夢に象徴される代理的な願望充足』よりも『自我防衛機制の分析・現実原則への適応』のほうが重視されるようになっていく。

生命体を死に回帰させようとするタナトスが、自己破壊や自己否定の作用を及ぼす『反復強迫』の症状を発症させる。タナトスは万物を本来的な無機物(死)の状態に回帰させる力動なので、タナトスそのものを無効化して解消することなどはできず、精神分析の治療論は如何にエロスを増大させるか、自我防衛機制を適切なレベルで用いて自我機能を補強するかという『自我心理学の視点』へと結実していった。

S.フロイトの反復強迫の病理学やタナトスの仮説は、『自我心理学』を発展させたアンナ・フロイトやハルトマンらには受け容れられなかったが、乳幼児期の『破壊性・妄想性を伴う無意識的幻想』を仮定したメラニー・クラインは、タナトスを乳幼児期の早期発達論の構成要素(妄想−分裂ポジションにおける「悪い乳房」に対する破壊衝動)として導入した。



posted by ESDV Words Labo at 07:10 | TrackBack(0) | は:心理学キーワード | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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