リビドーの備給と『退行・固着』の精神病理学
精神分析における精神発達論は『リビドー発達論』とも呼ばれ、『リビドーの充足−阻害』によって精神状態や行動が決定されると考える。
リビドー(libido)とは、生物学的基盤を持つ性的欲動であり、人間の行動を無意識的に規定する心的エネルギーでもあるが、リビドーが過剰になったり適切に充足されないことで、様々な精神症状や不適応行動が発生してくる。リビドーは物理的に実在するエネルギーではなく、精神分析の理論的な仮説概念であるが、人間の精神発達や精神病理の問題を合理的に説明するのに役立っている。
リビドー(性的欲動)が身体のどこの部位で充足されるのかによって、『口唇期・肛門期・男根期・潜伏期・性器期』の発達段階に分類されてくるが、発達段階が未熟な幼い段階では『自己中心性・依存性(甘え)・強迫性・吝嗇(ケチ)』などの性格特徴が目立ってくる。
それぞれの発達段階にリビドーが退行して固着すると、口愛期性格や肛門期性格、男根期性格といった独特の個性・特徴を持った性格構造が形成されることになる。精神分析では精神症状の形成維持の要因としても『リビドーの退行・固着』を仮定している。
どうして、リビドーが未熟な幼児的段階に逆戻りする『退行』が起こるのかというと、その発達段階で、過度にリビドーが抑圧されたり、充足され過ぎたりするからである。この事はリビドーが『溺愛・甘やかし・過保護』によって充足され過ぎるのも問題だし、反対に『虐待・育児放棄(ネグレクト)・トラウマ』によって満たされなさ過ぎるのも問題であることを示唆している。
リビドーが簡単に満たされ過ぎると、快適で安楽だった過去の発達段階に退行して固着しやすくなる。逆に、リビドーがトラウマティックな出来事や虐待経験などによって過度に満たされないと、苦痛で悲しかった過去の発達段階に意識が退行しやすくなって固着しやすくなる。
苦痛なトラウマ(心的外傷)の瞬間冷凍が内面が起こり、トラウマと関連する対象や状況、イメージに関心が向かいやすくなることで、リビドーが『トラウマ関連の事象』に備給されて退行・固着が起こりやすくなると考えられている。

