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2010年05月21日

[精神分析の転移・転移性治癒(transference cure)]

精神分析の転移・転移性治癒(transference cure)

精神分析の自我防衛機制の一つとして『転移(transference)』があるが、転移とは過去の重要な人物(親)に向けていた強い感情を、現在の人間関係の中に向け変えるという心理機制である。転移には『過去の激しい感情の再現』『過去の親子関係の反復』といった要素があり、精神状態が発達早期に戻って幼児的な言動が増える『退行(regression)』の防衛機制とも強い相関がある。

転移には好意や愛情など肯定的な感情を向ける『陽性転移』と憎悪や怒りなど否定的な感情を向けてしまう『陰性転移』があるが、精神分析の心理療法では過去の人間関係や家庭環境の問題が反映される転移感情を分析することを重視している。

精神分析療法のコンテキスト(文脈)では、クライアントから分析家に向けられる強い過去の感情を『転移』といい、クライアントの影響を受けた分析家が抱いてしまう強い感情を『逆転移』と呼んでいて、フロイト以後は逆転移の精神療法への応用も認められるようになっている。

無意識に抑圧された過去のエディプスコンプレックス(両親への激しい感情)が転移感情には含まれており、『転移分析』を行うことによって自己と両親との関係性を客観的に見直しながら、エディプスコンプレックスの悪影響を取り除いていくことができるのである。

フロイトと決別した分析心理学のC.G.ユングは、転移感情と逆転移感情の相互作用に注目して、普遍的無意識の元型(アーキタイプ)を考慮しながらクライアントの無意識の世界をより直観的・共感的に理解しようとしていた。

クライアントの精神障害や心理的苦悩を緩和する上で、精神分析の『転移分析』は重要な役割を果たしているが、十分な情緒的理解や知的洞察を伴わないケース(症例)では、陽性転移感情によって一時的に症状が抑制される『転移性治癒(transference cure)』が起こることがある。一時的な転移性治癒は、本来的な精神障害の回復や心理的問題の解決にはつながりにくく、『クライアントと分析家の関係性』の変化によって、クライアントの感情が激しく揺れ動きやすいという問題が発生しやすい。

つまり、『分析家との信頼関係・肯定的感情』にクライアントの心理状態や精神症状が大きく依存してしまっている状態が転移性治癒なのである。そのため、クライアントが分析家に『ネガティブな感情(陰性感情転移)』を持つような事態が起こると、それまでの症状の軽快が嘘であるかのように症状の再発・悪化が起こってきて、状況はより一層混沌とした不安定なものになってくる。転移感情を体験しているクライアントは、ある種の承認欲求の充足や安心感を感じたりしやすいのだが、転移は反復(繰り返し)するものではなくて、解決・克服していくべきものなのである。

posted by ESDV Words Labo at 12:23 | TrackBack(0) | て:心理学キーワード | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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