転換性ヒステリー(conversion hysteria)
S.フロイトが精神分析研究の初期に経験・見聞した症例には、アンナ・Oやエリザベス嬢、ルーシー嬢など『転換性ヒステリー(conversion hysteria)』の症例が多かった。現代ではヒステリーというと、感情的に激しく興奮して現実的な判断や冷静な会話ができなくなる症状・性格のことを意味するが、19世紀当時のヒステリーは女性に特有の神経症(neurosis)の一種と認識されていた。
ヒステリーとは心理的原因や性格的要因によって情緒不安定になり、幼児的な依存性や自己顕示的な行動が増える疾患であり、手足の振るえや失立・失歩、言語障害、運動障害など身体症状が発症することもある。ヒステリーの身体症状の特徴は『知覚―運動系の機能障害』であり、S.フロイトはその身体症状の形成機序として無意識の力動と関係した『転換(conversion)』を仮定したのである。
転換というのは『感情的葛藤』から『身体症状・精神症状』への転換という意味であり、無意識領域に抑圧された過去の激しい感情や苦痛な記憶が、各種の心身症状へと転換されるということである。
『転換性ヒステリー』の特徴は、本人が想起することが困難なトラウマティックな過去のエピソード記憶があったり、本人が道徳的に受け容れがたい過去の記憶・感情を抑圧しているということであり、無意識に抑圧された願望・性的欲求が心身症状に転換されるという症候学が形成されていった。
現代の精神医学のテキストからはヒステリーや神経症という病名は消えているが、DSM―Wでは転換性ヒステリーと同様の症状形成機序を持つ精神障害として、『転換性障害・身体表現性障害』の疾病分類と診断基準が確立している。精神的な苦悩の蓄積や過去のトラウマ体験の抑圧などが、何らかの身体症状(知覚―運動系の障害)へと転換されるという症状形成メカニズムは、(身体疾患・脳疾患の鑑別診断をしっかり行うという前提で)現在の精神病理を理解する上でも参考になることがある。

