家族療法の纏綿(てんめん, enmeshed)
S.ミニューチン(S.Minuchin)の構造派家族療法では、システムズ・アプローチの観点を採用して、家族成員の相互作用に注目した対応をしていく。家族の誰か一人が悪いから問題が起こっているという『悪者探し』の直線的因果論を否定して、家族それぞれがネガティブなコミュニケーションをしたり過剰な干渉をしたりすることによって、相互に悪影響を与え合っているという円環的因果論を採用するところに構造派家族療法の特徴がある。
家族成員が安定した心理状態で過ごせる『機能的な家庭』では、それぞれの家族成員のプライバシー(私的領域)と一人の時間が適度に尊重されている。そして、家族と家族を結びつけるサブシステムでは、それぞれのプライバシーや内的世界を守るための『境界線』が引かれているのだが、『過保護・過干渉・母子一体化(甘やかし)』などの問題を抱えた家族ではその境界線が消えてしまう『纏綿(てんめん)』という状況が生まれやすい。
纏綿(てんめん, enmeshed)という言葉は現代では余り使われないが、綿と綿が絡まりあっている状態からの比喩で、『心にまつわりついて離れない・情緒的に複雑に絡まりあっている』という意味を持っている。
家族のメンバーとメンバーの間に一定の境界線が無いので、『子どもの内面心理・プライベート』に親が遠慮もせずに土足で踏み込むような過保護・過干渉が見られやすくなり、そういった情緒的な纏綿が起こることによって『子どもの自尊心・自立心』が傷つけられてしまうリスクもある。
纏綿が起こっている家族状況では、他の家族のことを過剰に心配してあれこれ世話を焼きすぎたり、他の家族との対立・葛藤を避けるために過保護になって甘やかしすぎたりといった問題が起こりやすく、『もつれ合った情緒・絡み合った関係』をある程度ときほぐして距離を開けることで状況が良くなることが多い。纏綿の家族関係を改善していくためには、それぞれの家族を『自分とは異なる個人』として適度に尊重することが必要である。
即ち、『家族成員の内面世界・私的領域』に対しては親しき仲にも礼儀ありの姿勢で、一定の心理的距離を置いて見守っていくことも必要ということである。『もつれ合った情緒・自他の同一視』を解決して自立心を回復することによって、『他の家族が本当に求めている援助の方法(掛けてほしい言葉)』が見えやすくなってくる。
家族療法では『纏綿』の対義語として、他の家族に対して共感性や興味関心を完全に失ってしまう『遊離』という概念があるが、纏綿と遊離の中間的な家族関係のあり方を模索していく必要があると言えるだろう。

