同一化(identification)と投影性同一視(projective identification)
『同一化(identification)』は精神分析の自我防衛機制の一種であり、対象の持つ特徴や属性、思考・感情などを自分の内面に取り入れることで、自己と対象とを同一化してしまうというものである。乳幼児期の発達早期には『取り入れ』と『同一化』の防衛機制が同時に発動しやすく、特に両親(同性の親)の行動や発言・考え方を模倣して同一化するような状態が現れやすい。
子どもは生まれて初めて出会う権威者である『親』に対して、『取り入れ』や『同一化』の防衛機制を働かせて、両親の特徴や属性の目だった部分を自己の一部として取り入れようとするのである。3〜4歳の時期には『第一次反抗期』、小学校高学年〜中学生頃の思春期には『第二次反抗期』を迎えることが多いので、精神発達の過程では何度か『同一化』は断絶する。だが、概ね子どもは、親と似通った思考・感情・価値観を身に付けやすい傾向がある。
児童期〜思春期の発達段階では、学校の先生や憧れの先輩、芸能人、アーティスト、スポーツ選手など様々な他者(対象)に対して『取り入れ・同一化』を起こすことがある。これらの防衛機制は『自分の好きな相手・尊敬できる相手』だけに働くわけではなくて、『自分が嫌いな相手・恐れている相手』などに対しても同一化することがあり、同一化によって恐怖や不安から自我を防衛することがある。
『投影性同一視(projective)』というのは、対象関係論(英国独立学派)を創始したメラニー・クライン(Melanie Clein, 1882-1960)が重視した発達早期の原始的防衛機制である。M.クラインは発達早期の乳児の発達段階を『妄想−分裂態勢(生後0ヶ月〜3‐4ヶ月)』と『抑うつ態勢(生後4ヶ月〜1歳頃)』の2つに分けたが、投影性同一視や分裂の原始的防衛機制が主に見られるのは前者の妄想−分裂態勢である。
『妄想−分裂態勢(妄想−分裂ポジション)』では対象(母親・乳房)が一つの全体として統合されておらず、二項対立的な『部分対象』として認識されている。原始的防衛機制である『分裂(splitting)』が発動して、良い側面と悪い側面を併せ持った『全体対象』であるべき母親が、『良い乳房』と『悪い乳房』という部分対象として二項対立的に認識されているのである。乳児は自分自身についても分裂の防衛機制を無意識的に働かせて、『良い自己』と『悪い自己』を作り出し、それらを母親の『良い乳房』と『悪い乳房』にそれぞれ投影して同一化させるという。
『投影性同一視(projective identification)』とは自己の一部を対象に投影すると同時に、自己の一部と対象の一部を同一視してしまう防衛機制であり、妄想−分裂ポジションにある乳児は『良い自己の愛情・好意』を『良い乳房』に対して投影し同一化する。それと同時に、『悪い自己の攻撃性・破壊衝動・憎しみ』などのネガティブな感情を『悪い乳房』に対して同一化するので、悪い乳房を傷つけて破壊しようとするタナトスの無意識的幻想が強まるのである。
投影性同一視は最も原初的な共感能力の発揮であるが、統合失調症や境界性パーソナリティ障害の人にも病的で不適応な投影性同一視の防衛機制が見られることがある。

