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2010年08月22日

[実存主義・実存療法とトランセンデンス(transcendence)]

実存主義・実存療法とトランセンデンス(transcendence)

カウンセリング技法のひとつである『実存療法(existential therapy)』は、人間固有の存在形式である『実存(existent)』を前提とした技法で、自分は自分以外の人生を生きることはできないという『人生の一回性・唯一性』に焦点を当てている。実存というのは社会や他者と同一化できない『自己の特殊性(=自意識を持つ存在形式)』であると同時に、『客観的な人生解釈』ではなくて『主観的な人生体験』によって人生の意味づけ(価値定立)をしていこうとする志向性のことでもある。

フランスの実存主義哲学者とされるジャン=ポール・サルトル(Jean-Paul Charles Aymard Sartre, 1905-1980)『実存は本質に先立つ』という格言を残しているが、この言葉の意味は存在の価値は『普遍的な本質』によって与えられるのではなく『個別的な経験・意識』によって与えられるということである。

ジャン=ポール・サルトルと契約結婚した思想家のシモーヌ・ド・ボーヴォワールは、『人は女に生まれるのではない、女になるのだ』という格言を述べたが、これも実存主義の基本的理念を反映した言葉である。

ボーヴォワールは生得的あるいは社会的に規定される『女性性の本質』というものを否定して、生まれながらに女性であるわけではなくて社会規範や教育行為によって『時代に適合した女性性』が作られるということに着目していた。これは男女の性差が生物学的に規定される『セックス(sex)』に全面的に依拠するのではなくて、社会的・教育的に規定される『ジェンダー(gender)』によって生まれることを指摘した事例でもある。

実存主義の思想は『普遍的・必然的な本質存在』を否定して『個別的・偶然的な現実存在』の優越を強調するものであり、生まれながらの運命や本質、規範によって人間の存在価値が規定されるという従来の『世界観(宗教教義・社会慣習・伝統文化)』を否定するものであった。

フリードリヒ・ニーチェやジャン=ポール・サルトルが否定しようとした『普遍的・必然的な本質存在』の代表は、キリスト教(一神教)の教条的な世界観・人間観である。そのため、実存主義は神の支配や聖書の真理などに人間が従属する必然性(合理的根拠)が無いという『無神論』の先駆けにもなったのである。

『生得的な本質・普遍的な真理・決定論の運命』を否定する実存主義は、自分自身の人生に対する自由意志(選択)や自己責任を強調する思想であり、実存主義を応用したカウンセリングの実存療法では『生きる意味・人生の価値』を経験的に模索することで精神的苦悩を改善しようとするのである。

精神分析的な立場で実存療法の臨床実践をしたのはルートヴィヒ・ビンスワンガー(Ludwig Binswanger, 1881-1966)メダルト・ボス(Medard Boss, 1903-1990)であるが、彼らは精神病理を現象学的に分析しながら『主観的な生きる意味の洞察(実存的なレゾンデートルの気づき)』を促進しようとした。

実存療法では超越論的現象学の立場から『トランセンデンス(transcendence)』という言葉が用いられることがあるが、これは『生得的な本質(社会的な規範)・普遍的な真理・決定論の運命・過去の成育歴』に束縛されずに自分固有の人生の価値や喜びを追求するということである。トランセンデンスは日本語では『超越・超克』といった訳語が当てられるが、『人生の有限性』『自己選択の責任性』を前提として、生得的あるいは本質的な自己規定(外部要因による自己存在の決め付け)を乗り越えていくことで『自分固有の存在意義』に接近できるのである。



posted by ESDV Words Labo at 12:03 | TrackBack(0) | と:心理学キーワード | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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