トランセンデンタル・メディテーション(transcendental meditation),自己超越的なTM瞑想
トランスパーソナル心理学の項目で、自我(自己意識)を超越して宇宙と合一化する手段としてLSD(薬剤)や瞑想が用いられると説明したが、トランセンデンタル・メディテーション(TM)は自己(自我意識)を超越するための瞑想の方法論と実践法のことである。古代インドのヴェーダ哲学やバラモン教(ヒンドゥー教)の影響も受けているトランセンデンタル・メディテーション(transcendental meditation:TM)は、ブラフマンとアートマンを統合する『梵我一如(ぼんがいちにょ)』を実現するための瞑想法でもある。
梵我一如はヴェーダにおける究極の悟りであり、梵我一如を看破して実践することによって『永遠の安楽・幸福』の状態に導かれると考えられていた。『ブラフマン(梵)』とは宇宙・世界の根本原理であり、『アートマン(我)』とは個人・自我の基本原理であるが、ヴェーダ哲学ではブラフマンとアートマンは究極的には同一のものであるという教義があり、個人の実体としての『我』と宇宙に遍在する『梵』とが同一であることを悟ることで、あらゆる苦悩・迷いから自由になるとされていた。
トランセンデンタル・メディテーションは『TM瞑想』と略されることもあるが、インドの哲学者・宗教家のマハリシ・マヘッシ・ヨーギ(Maharishi Mahesh Yogi)によって1956年に創設されたものである。
1970年代の欧米で大流行した簡易な瞑想法であり、世界的アーティストとして人気のあるビートルズのメンバーもTM瞑想に傾倒していた時期がある。マハリシ・マヘッシ・ヨーギは人間のあらゆる思い(欲求・感情・苦悩)が、精神構造の奥深い領域にある『想念の源』から発生すると仮定し、TM瞑想のマントラを暗誦する手順を踏むことでその『想念の源』にアクセスできると考えた。
TM瞑想はあるシンプルな言葉(マントラ)を心の中で唱えながら、想念の源に段階的に接近するというものだが、1回15分〜20分間の瞑想・体操を1日2回するだけなので誰でも手軽に始めやすいという利点がある。日本にTM瞑想を導入したのは創始者であるマハリシ自身であり、日本には1968年に伝えられている。TM瞑想を定期的に実践することによって、『大我・真我・超越存在・想念の源』といった深層心理の深い領域へと意識を導くことができ、表層意識で感じている苦痛や悲しみ、怒り、迷いから自由になることができるという。
TM瞑想の初心者向けの『学習コース』は6日間で10時間のカリキュラムで行われ、『説明会・準備講義・個人面接・個人指導・3回の指導者による瞑想のチェック』といった段階を踏んで教育が行なわれている。TM瞑想は、1日に2回、体操・呼吸法と瞑想法(各20分ずつ程度)を合わせて実行されるが、TM瞑想の効果としては『脳波のα波への移行・体内の酸素消費量の減少と呼吸の安定・心身の健康増進効果』などが確認されている。