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2010年09月28日

[荷おろしうつ病・空の巣症候群]

荷おろしうつ病・空の巣症候群

気分・感情が急激に落ち込んで無気力と抑うつ感が強まり、何もする意欲がなくなるというのが『うつ病(depression)』であるが、うつ病の発症要因のひとつとして『自己アイデンティティの拡散』を想定することができる。自分がどういった存在であり、どのような役割・立場を担っているかが明確化されている時には自己アイデンティティが安定して確立されやすいが、『自分の立場・役割・存在意義』が曖昧になってくるとアイデンティティが拡散して抑うつ感・無意味感に襲われやすくなってしまう。

自己アイデンティティの変化・拡散は、『生活環境・仕事状況の急激な変化』『重要な人間関係(役割関係)の喪失』と深く相関していて、家庭内や職場内での役割・存在意義が失われた時にうつ病の発症リスクが高まってくる。仕事の過重な負担や責任がなくなって本来であれば気楽になるはずなのに、どんよりとした気分の落ち込みや何もやる気が起きない億劫感・無気力を感じてしまうことがあるが、これが会社員(サラリーマン)の定年後などに発症しやすい『荷おろしうつ病』である。

荷おろしうつ病とは『自分が絶対にやらなければならない仕事・役割・責任』を失って、肩の荷が下りたような時に発症しやすいうつ病であり、『自分が必要とされている実感・自分が果たすべき役割』を感じられなくなって、何をして良いか分からなくなる方向感覚(生き甲斐)の喪失とも関係している。荷おろしうつ病は『自分がやるべき仕事・役割』がなくなってしまったと感じる時に発症しやすいという意味では、定年後のサラリーマンや子育てを終えた専業主婦に起こりやすいうつ病である。

忙しくて大変な子育てを終えた主婦が、自分の果たすべき役割がもう無くなったと感じて、抑うつ感・無気力・孤独感に襲われるのが『空の巣症候群』と呼ばれるうつ病の病態であり、『家庭における自分の存在意義・役割』が無くなったというのが主要原因である。『仕事・学問・育児・家事』など何か一つの事柄だけに、自分の生き甲斐や楽しみの全てを賭けている人ほど発症リスクが高くなるので、『定年した後に何を趣味娯楽にするか?子育てが終わった後にどういう風に第二の人生を楽しむか?』という義務的活動に縛られない自由な発想を持つことがうつ病の予防にもつながる。

荷おろしうつ病というのは『他律的・義務的・役割的な生き方への過剰適応』が原因であり、『自分自身がどのようにして人生を楽しむのか?自分は何がしたいのか?』という自発的な行動のモチベーションに欠けていることがメンタルヘルス悪化の要因となっている。『家庭内での役割・職場内での仕事』といった義務や責任を伴う活動には確かに『社会的・家庭的な価値』があるのだが、定年や子どもの自立を迎えるとそれらの活動の義務が少なくなってくるので、自分自身で考えて自分の趣味や楽しみ、役割を作り上げていかなければならないのである。

『荷下ろしうつ病・荷下ろし状況』という用語をうつ病の発症状況の説明に用いたのは、ドイツの精神科医W.シュルテ(W.Schulte)H.ミュラー(H.Muller)であり、人間の自己アイデンティティや生き甲斐の喪失とうつ病の発症リスクを相関させていて興味深い。

posted by ESDV Words Labo at 07:37 | TrackBack(0) | に:心理学キーワード | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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