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2010年10月28日

[S.フロイトの涅槃原則とタナトス(死の本能)]

S.フロイトの涅槃原則とタナトス(死の本能)

精神分析の創始者であるジークムント・フロイト(S.Freud, 1856-1939)は人間の行動選択を規定する原則として、『快感原則(pleasure principle)』『現実原則』とを定義した。フロイトは乳幼児期の快感原則がエディプスコンプレックスで去勢されることによって、状況適応的な現実原則に従うようになると考えたが、現実原則に適応する精神構造は『自我(ego)』である。

快感原則というのは生まれてすぐの赤ちゃん(乳児)が持つ、快楽を求めて不快を避けるという行動原則のことであり、成長するに従って現実状況を考慮せずに即時的に満足(快感)を得ようとする快感原則は通用しなくなってくる。3〜4歳頃の幼児期までは、人間は手に入らないものがあれば泣き喚いたり嫌なことがあれば拗ねたりして、周囲にいる親・大人に自分の欲求を満たしてくれるように訴えるが、こういった剥き出しの快感原則は『現実性・社会規範の象徴』としての父親によって去勢されることになる。

エディプスコンプレックスが精神発達過程に対して果たす役割の一つが、幼児的全能感に依拠する快感原則の去勢(断念)であり、自我の強化によって現実原則への適応を高めることになる。現実原則(reality principle)というのは『自分の欲求』『現実的な状況・社会的な規範・他者の反応』に合わせて満たそうとする行動原則であり、快感原則も現実原則も結果としては『快感・満足の獲得』を目的としており、両者の原則は『エロス(生の本能)』によって駆動されている。

S.フロイトは本能二元論において、生の本能である『エロス』と死の本能である『タナトス』の二つを仮定したが、タナトスによって形成される行動原則を仏教用語を借りて『涅槃原則(Nirvana principle)』と呼んでいる。仏教でいう『涅槃(ねはん)』とは煩悩・執着の炎が吹き消された絶対的な寂静と安楽の境地であり、『涅槃寂静』とは仏教の修行者・僧侶が目指す究極的な悟り(解脱)の境地で、一切の欲望と苦悩の消滅(=自我の消失)を意味する。

S.フロイトは有機体である動的な生物(生命)には、静的な無機物に回帰しようとする『タナトス(死の本能)』があると主張し、生命体がいずれ寿命を迎えて死滅することはタナトスによる必然的な帰結であるとした。また、タナトスはエスの善悪(他者の権利)を無視した原始的欲求とも相関していて、自滅的な行動や攻撃衝動(破壊衝動)にはタナトスからリビドーの性的エネルギーが備給されていると考えた。無や死、静止、寂静に向かう有機物の普遍的な傾向を規定する原則のことを『涅槃原則』と呼ぶが、この原則の名称を考案したのはイギリスの精神分析家バーバラ・ロウ(B.Low)であった。

生命体が死・虚無に回帰しようとする根源的傾向の原則として『涅槃原則』は定義されたが、この涅槃原則やタナトスの概念を自己の精神分析理論に効果的かつ整合的に応用した分析家として、英国で対象関係論を創始したメラニー・クラインがいる。



posted by ESDV Words Labo at 03:13 | TrackBack(0) | ね:心理学キーワード | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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