フリッツ・パールズ(F.S.Perls)が創始したゲシュタルト療法の基本原則が『今』の原則(principle of the now)であり、『今、現在、ここからどうすべきか』を最重要視する原則である。
フロイトの精神分析療法では『無意識の意識化(無意識の言語化)』を意図して、過去の感情体験や不快な記憶を自由連想させようとするが、パールズのゲシュタルト療法では『過去は既に過ぎ去ったものであり、未来は未だ来ていないものだから、私たち人間が現実に生きられるのは「今」だけだ。「今現在」の問題を意識化し、今・ここから自分がどのように行動すべきかを考えればよい』と意欲的にポジティブに考える。
ゲシュタルト療法の面接構造と治療場面では、『現在のクライエントとカウンセラー』に焦点を合わせて、過去に執着せず未来を心配せずに、現在抱えている問題をどう解決していけばよいかを二人三脚で模索していく。
ゲシュタルト療法では、精神分析療法で重要なものとされる『過去の感情体験を再現する転移関係・転移感情』を否定して、『現在の実際的なカウンセラー・クライエントの二者関係』の中で心理的問題の解決法を考えていくことになる。
パールズは、陽性転移感情(過去の人間関係で抱いた好意・愛情)や陰性転移感情(過去の人間関係で抱いた憎悪・怒り)に囚われてしまうと、現実的なカウンセリング構造が破壊されてしまうと考えた。つまり、転移特有の空想的な心理体験や誘惑的な人間関係に陥ってしまうと現実的な問題や現在の人間関係に意識が向かわなくなりカウンセリングの意義が乏しくなるとして、転移現象の分析に否定的な心理療法の技法を確立したのである。
ゲシュタルト療法では、過去をひきずっていない純粋な個人と個人として、カウンセラーとクライエントが出会うことを大切にし、そういった現実的で実存的な人間理解を基盤としてありのままの感情や意見をお互いにぶつけ合いエンカウンター(共感的な交流)していくのである。
『今』の原則(principle of the now)に依拠したカウンセリングには、以下のような質問パターンが基本的なものとしてある。
『あなたは今、何を考えていますか?』『あなたは今、何を感じていますか?』『あなたは今、どういった事柄に気づきましたか?』といった質問パターンをクライエントに持っていくことで、過去のトラウマや幼少期の親子関係といった過去探索的な思考から現実を直視する思考へ意識を転換させようとするのである。
ゲシュタルト療法では、成熟した人格構造として『心身一如の人間観』を前提としているので、身体の調子、身体の生理学的状態に絶えず気づかせようとする。『あなたは、今、身体にどんな感じがありますか?』という質問をして、『私は、今、心臓がドキドキしています。私は、今、リラックスして安心しています』などの答えを引き出し、心理と身体の状態のバランスに気づかせることを目的としている。