アレン・アイビィが考案した体系的な構造を持つカウンセリング技法『マイクロ・カウンセリング』の基本技法の一つが『意味の反映技法(reflection of meaning)』である。意味の反映技法は、生活環境で起こる出来事がその人にとってどういう意味を持っているのかを考えさせ、社会的な人間関係の意味、他者の自分に対する行動の意味を深く洞察させようとする共感的な技法である。
相手の立場にたって、相手がその時にどういう事を考えてどういう感情を持ったかを想像し、相手の主観的な意味づけや解釈を重視するという意味では、アーロン・ベックを嚆矢とする認知療法で、不合理な認知(自己否定的な認知の歪み)や非適応的な考え方(自動思考)に気づかせようとする技法に類似している部分もある。
意味の反映技法では、外的な出来事や他者の人間関係について普遍的な理論を持ち込まず、十把一絡げの一般的な理解をしないのが最大の特徴であり、ある人にとって喜びを感じる出来事でも、ある人にとっては悲しみの原因になりうるという主観的体験の多様性を前提している。
例えば、深い人間関係を求めて孤独感を感じる状況が嫌いな人にとって、頻繁に携帯メールを送ってくれて電話を掛けてくれる友人は、いつも自分のことを気に掛けてくれている優しくて大切な存在として認知されるが、それほど親密な人間関係を求めておらず一人で過ごす趣味の時間を大切にしている人にとっては、あまり頻繁にメールや電話をしてくる友人は、自分の平穏な趣味の時間を乱す少し煩わしい存在として認知されている可能性がある。
反対に、自分が良かれと思って相手にした親切や配慮が、相手の主観的な心理的意味づけでは迷惑な行為だったり不快感を感じる振る舞いだったりもすることがある。その為、個人にとっての意味づけの解釈は非常に多様で、どういった人間関係や出来事が望ましく、どういった現象やコミュニケーションが好ましくないものなのかを一義的に確定することは困難である。
マイクロカウンセリングでは、意味の反映技法を通して、クライエントにとってその出来事や人間関係がどういった意味や価値を持っているのかをまず洞察させる。
クライエントは、『自分の心理体験の意味』を段階的に明らかにしていくカウンセリング作業を行い、自分に本当に必要なものや人間関係が何なのかを理解できるようになる。そして、自分が本心から望む生活状況や人間関係を実現する為に、実際の行動や認知を望ましい方向へ変えていくことを目指す事になる。
自分でも気づく事が難しい『対人関係における情動の変化』や『外部事象に対する意味づけ』に洞察促進のカウンセリングを通して気づいていくことで、自分の人生の意義や自分が本当に認めている価値のあり方などが分かってくる。自分が追求したいと本心から思える意味や価値に気づいても、それを直接的な自己実現につなげていくことは難しいし、全ての希望や欲求を追求することがかえって自分のデメリットや不幸を生み出す場合もある。
しかし、自分の価値判断や意味づけを改めて見直してみることで、現在の自分の生活の何処を変えていけばいいのかが見えやすくなり、ストレスコーピングや生活行動の改善に役立てることが出来る。