ウェブとブログの検索

カスタム検索





2006年04月25日

[意味への意志(will-to-meaning)],[『夜と霧』を記述したV.E.フランクルのロゴセラピー]

意味への意志(will-to-meaning)

性的欲動を重視するシグムンド・フロイトや人類共通のイマーゴを大切にするユング、劣等感の補償を語るアドラーなどの精神分析系統の学派では、それぞれの学派が依拠する基本的人間観や心理力動のエネルギー源を元にして仮説が構築される。

精神分析以外の臨床心理系の学派学閥にも、それぞれの理論が前提とする基本的人間観があり、その人間観を支える精神活動のモチベーション類型がある。精神活動のモチベーションの類型というのは、何かを考えて志向し行動に移す心理的エネルギーの源泉となるものである。

フロイトの精神分析学では、快楽原則に象徴される『快楽への意志』が精神活動のモチベーションであり、人間行動の原理原則は『快楽への意志の充足戦略』として解釈することが可能となる。

ユングの分析心理学では、普遍的無意識の元型がほのめかしてくれる『自己実現への意志(個性化の過程』こそが精神活動のモチベーションであり、無意識からのメッセージを受容して自己実現することが、人間が喜怒哀楽の感情を持ってこの世界で生きている意義であるとされる。

アルフレッド・アドラーの個人心理学では、アドラー自身が、過去の身体的脆弱性の劣等感を克服する為に医学や学術の学習研鑽に励んだように、『権力への意志(優越への意志)』こそが人間の精神活動のモチベーションであると考える。アドラーは、人間には必ず長所と短所があり、短所や欠点は他者との比較で劣等感の原因となると考えた。

人間は他者よりも劣っていると考える劣等感によって苦痛や不快を感じ、その不快感を和らげる為に、自分の弱点を鍛えて強化したり、苦手な分野とは異なる分野において優越感を得ようとする。この『劣等感の補償』の為のダイナミズムこそが、アドラーの個人心理学の基本的人間観であり精神活動のエネルギー源なのである。

『意味への意志(will-to-meaning)』は、精神分析を修得した精神科医であるヴィクトール・エミール・フランクル(V.E.Frankl, 1905-1997)の著作名であり、彼の仮定する人間の根源的な行動原理実存主義的な存在価値のことである。

ナチスドイツが設営した非人間的な強制収容所でユダヤ人のホロコースト(大虐殺)が遂行され、推計600万人のユダヤ人がガス室で処刑されたというが、V.E.フランクルはそのアウシュビッツを頂点とする強制収容所から生還したユダヤ人である。

ナチスドイツの総統であったアドルフ・ヒトラー『夜と霧』というホロコーストの極秘作戦の実行を命令したが、V.E.フランクルの歴史的名著『夜と霧 ドイツ強制収容所の体験記録』は、そのホロコーストの強制収容所の極限状況で彼が『生存の意味への意志・人生の価値の認識』を喪失せずに生還した実体験の記録なのである。

V.E.フランクルの基本的人間観は、絶える事なき苦悩に直面し乗り越えていく『ホモ・ペイシエンス(homo patience, 苦悩する人間)』にあり、『人間はどんなに過酷な極限状況にあっても、“意味への意志”を捨てないことで圧倒的な絶望や救いのない苦境を克服できる』という経験論的な確信を持っていた。

フランクルは、人生の意味や生存の価値というものを探求して実現しようとするのが人間の生の本質だと考え、真の精神的な充足感は『意味への意志(will-to-meaning)』を目指し満たすことによって得られるとした。

この意味への意志には、実存主義哲学者M.シェーラーの思想が影響しているとされ、フランクルは、実存主義を基盤におく意味志向・価値実現的な心理療法としての『ロゴセラピー(実存分析.実存療法)』を創始した。

フランクルのロゴセラピーの精神分析学派は、ウィーン第三学派とも呼ばれ、『近代以降の解決困難な人生の虚無感や空虚感=ニヒリズム』を精神病理の原因に置く。ロゴセラピーとは、虚無的価値観を打ち砕く『意味への意志』によって、人生の実存的意味を喪失した精神病理を治療しようとするものである。

フランクルの提唱した『意味への意志』には『自己超越性』が含意されていて、人間の人生の意味として『自我を越えた理念・使命・愛・関係』など崇高で利他的なもの想定されている。しかし、性的関係による快楽に高次の愛が想定でき、経済的な利益に高次の社会貢献が伴うことがあるように、『快楽・利益・権力』は究極的には『意味への意志』と何らかの相関を持っていると考えることが出来る。

他力本願の諦観や自堕落な生活習慣に陥ることなく、人生の無意味さと空虚感に打ち負かされない為に、私たちはいつも無意識的に意味や価値を志向しそれに向けた実践を続けている。この意味追求と価値発見に基づく弛みなき努力研鑽こそが、フランクルのロゴセラピーの底流に流れている不屈の精神なのである。

posted by ESDV Words Labo at 20:41 | TrackBack(0) | い:心理学キーワード | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

この記事へのトラックバック