アトピー性皮膚炎(atopic dermatitis)は、心身医学の観点から心因性の身体疾患である心身症(psychosomatic disorder)に分類されることもある皮膚科領域のアレルギー疾患(遺伝素因も関与するアレルギー性疾患)である。「ドライスキン・発赤・湿疹・炎症・鱗屑・激しい掻痒感(かゆみ)」など皮膚症状の病態と水準は非常に多彩であり、一義的にその病因を特定することは出来ない。
乳幼児期に発症した場合には免疫機能が安定してくる小学校の児童期までに軽快・治癒する事例が少なくないが、自然治癒の契機を逃して思春期以降にまで長期経過する事例では、一般に難治性のアレルギー性皮膚疾患となる。発症年齢は5歳以下の乳幼児期が最も多いが、最近では思春期や成人期以降に発症する事例も増えており、成人型アトピー性皮膚炎は炎症部位の範囲が広くなりやすく、慢性化して経過が長引くことが多い。
年齢が高くなるにつれて、卵や牛乳など食物に対するアレルギー反応は見られにくくなり、原因・悪化因子を特定できない慢性皮膚疾患の様相を呈してくることが多いが、成人では精神的ストレスが悪化因子となっていることが少なくない。
成人型アトピー性皮膚炎の患者では、アトピー性皮膚炎・気管支喘息・アレルギー性鼻炎などの既往症や家族歴を持っている人が多数であるが、稀に全くアレルギー疾患の既往のない成人が突然何らかのストレス事態などをきっかけとしてアトピー性皮膚炎を発症することがある。世界的にも先進諸国を中心にアトピー性皮膚炎の患者数は増加しており、高度資本主義社会における環境汚染要因などが関係している可能性もある。
しかし、環境汚染要因のアトピー性皮膚炎への影響は定量化されておらず、生活環境のあらゆる汚染物質や危険因子を調査することは困難で十分な科学的エビデンスは確立されていない。
心身症(psychosomatic disorder)とは、精神医学や心身医学において『心理社会的な因子(人間関係や生活環境のストレス)が発症・経過に大きく関与している身体疾患』と定義され、診断や治療に当たってストレス対処(ストレス・コーピング)や性格特性(過敏性・神経質・依存性・衝動性)への配慮が必要なものをいう。
アトピー性皮膚炎の発症には基本的に心理的原因はあまり関与しておらず、アトピー素因と呼ばれる「皮膚器官の過敏性・炎症性・乾燥肌の遺伝要因」によって乳幼児期に発症契機を迎えることが多い。
アトピー性皮膚炎の発症・経過には、遺伝素因(アトピー素因)・体質気質・免疫異常(アレルゲンに対するアレルギー反応)など複数の因子が関係していると考えられていて、心身医学的治療や心理療法(カウンセリング)のみによって十分な治療効果を得ることは難しく、外用薬や内服薬などの薬物療法と心理学的アプローチの併用が望まれる。
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