様々な表情を見せる多数(8枚)の顔写真の好き嫌いの反応を調査することで、無意識領域の衝動・欲求・傾向を分析できるとする人格検査(パーソナリティ検査)にソンディ・テストがある。ソンディ・テストは、ハンガリーの精神科医リポート・ソンディ(L.Szondi)によって、1947年に開発された無意識を含む性格傾向(人格特性)を診断する心理検査である。
ソンディ・テストでは、悲哀・怒り・困惑・絶望などの解釈が成り立つ8枚の顔写真を被験者に呈示して、その中から好きな顔写真2枚と嫌いな顔写真2枚を選択して、それと同じ作業過程を6回繰り返して無意識的欲求の傾向などを分析することが出来る。6回繰り返すことで、合計48枚の顔写真を閲覧し、その中から好きな写真12枚・嫌いな写真12枚を選ぶことになる。
深層心理学的なパーソナリティ検査(人格検査)であるソンディ・テストで診断される衝動の類型は以下のようなものであり、エスの性衝動の社会適応や自我構造の機能を前提する辺りはフロイトの精神分析学の影響を感じさせるものである。
1.性衝動と文化適応度……性衝動
2.感情・情緒の機能と道徳観・倫理性……感情衝動
3.自我構造の欲求……自我衝動
4.外界との接触方法・人間関係のパターンの特徴……接触衝動
リポート・ソンディが『衝動心理学』理論を前提として開発したソンディ・テストは、ヘルマン・ロールシャッハが『知覚心理学』を前提として考案したロールシャッハ・テストと同じく無意識領域の心理状態や欲求・情動を測定評価できる投影法(projective method)に分類される心理テストである。
ただ現段階では、使用される写真の図版があまりにも古すぎること、種々の精神病理をイメージさせる外国人の写真なので現代日本人の選好に適さないことなどの問題点も指摘されている。ソンディ・テストでは、個人的無意識だけではなく、遺伝特性を持つ家族的無意識も測定することが出来るとされている。
ソンディが研究した運命分析学(fate analysis)とは、人間の人生過程に決定的な影響を与える運命を研究対象としたものである。一般的に『運命』というと、人為的な働きかけや意図的な計画では変更することの出来ない超自然的・超越的な人生の定めのことを言うが、ソンディは運命を不可避な必然的巡り合せとは考えなかった。
それ以外の結末は考えることが出来ないという宿命的な影響力としての運命の以外にも、人為的な努力や工夫で切り開き変更していくことの出来る運命があるとソンディは考えた。
前者は、人間がどのような振る舞いをしても回避することの出来ない決定論的な運命であり、ソンディはこれを『強制運命』と呼んだ。後者は、人間が決定論に抗う自由意志によって克服することが可能な可変的な運命であり、ソンディはこれを『自由運命』と呼んだのである。
不可思議な捉えどころのない人間の人生を左右する運命は、『強制運命』と『自由運命』が勢力を競ってせめぎ合い角逐して葛藤する過程の中で決定してくるのである。人間に決定論的な運命を強制しようとする『強制運命』と人間が自由意志で自らの人生を切り開こうとする『自由運命』が激しく葛藤して統合されることによって、その人の運命の趨勢が決まってくるという考え方がソンディの運命分析学にはある。
運命分析学理論を応用したカウンセリングでは、『強制運命』によって思い通りの人生を歩むことが出来ず、精神疾患を発症したり不適応の危機に陥ったりしているクライエントに対して、自由運命を体現できるような心理的援助を行っていく。人生過程や人間関係は、初めから運命的に決定されているものではなく、自分の意志の強さや努力工夫によって自ら築き上げ変化させていくものだという事を知ってもらうことが重要となる。
自分以外には、自分固有の人生を生きることが出来ないという自明な真実に気づき、『強制運命と自由運命の葛藤』の苦しみを自らの行動の工夫や認知の転換で乗り越えて、自由意志に基づく自由運命の人生を歩むことが運命分析カウンセリングの目的となる。