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2006年06月09日

[アノミー(anomie)],[デュルケームの『自殺論』におけるアノミー的自殺]

アノミー(anomie)

中心的価値観や強制力のある規範を喪失した社会的状況であるアノミー(anomie)とは、ギリシア語のアノミア(anomia, アノモス)に語源を持つ概念である。フランスの社会学者エミール・デュルケーム(E. Durkheim, 1858-1917)によって『無規範状態・無師範状態・神法の無視・道徳価値の混乱』といった意味を持つ専門用語として社会学領域に持ち込まれた。

実証主義の研究手法を社会学に導入しようとしたデュルケームは、社会学機能派を創始して社会環境の要因が個人の行動の生起に与える作用を重視した。デュルケームは著作の『自殺論』の中で、産業革命を経た近代資本主義社会では、際限のない欲望とその挫折、他者に干渉されない自由と自由ゆえの孤立感によって『アノミー的自殺』を行う個人が増加すると主張した。

アノミー的自殺の問題だけでなく、社会変動や環境条件が与える犯罪行動(逸脱行動)への影響を説明する概念としてもアノミー(anomie)は援用することができる。精神的な自由と経済的な繁栄を謳歌する現代社会に漠然と瀰漫している倦怠感と空虚感、生きる気力の減退感の原因として、社会的諸規範の喪失であるアノミーを考えることも出来る。社会全体で共有される普遍的な価値観は現代社会には存在せず、個人の行動を規制する禁欲的な宗教的規範といったものも影響力を失っている。

他者と物事の価値を共有する為の基準が、法規範(罰則)や貨幣(金銭)などに限定されてきており、生活方針や人生の意義を大枠で規定する『社会的な価値観・世界観・倫理観・宗教観』などは自由を制限する煩わしいものと考えられるようになった。

資本主義社会では、欲望を抑制して我慢することの美徳を説くような禁欲的道徳の影響力が弱くなり、無制限の欲望の表現とその欲望の合法的な充足と行動の自由が容認されることになる。その一方で、企業が行う広告宣伝のマーケティングや華やかな都市環境の魅力によって刺激される欲望を満たすことが出来ないフラストレーション(欲求不満)が現代社会では高まっていきやすくなる。

現代社会の価値規範の中心は利益と損失によって判断される功利的なものになっていて、禁欲的な倫理観に基づく価値判断は軽視されやすい。『経済的利益・性的快楽・虚栄心や優越感の心理的満足』が人々の抱く無際限の欲望の中心となり、経済活動を行うモチベーションの源泉となっている。しかし、失業・リストラ・不倫・失恋・挫折・失敗によってその欲望を長期にわたって満たす事が出来なくなる時に、精神的危機が訪れ逸脱行動(犯罪行動)や自殺に走る危険性が高くなってしまう。

社会学者のR.K.マートン(R.K.Merton)は、利己的欲望を社会規範で抑制することが出来ない逸脱行動を説明する一般理論の中でアノミー概念を用いた。資本主義社会では、社会全般に通用する目標としての欲望(経済的利益・性的快楽・優越欲求)が個人の内面で肥大する一方、その欲望の充足手段を規制する社会的諸規範(法律・倫理・宗教)の力が衰えていき、欲望と規範の葛藤の中で逸脱行動(犯罪行為)が起きやすくなるとマートンは主張した。

アノミーの無規範な混乱した社会状況は、人間個人にアナーキーな自由を保障するが、社会的弱者や競争の敗者に絶望感や挫折感を植え付けて逸脱行動に走るモチベーションを高めてしまう。社会的な動物としての人間が安定した危険のない共同生活を営んでいく為には、アノミー状態を回避して一定の社会的諸規範を遵守するコンプライアンスの意識を高めていかなければならないだろう。



posted by ESDV Words Labo at 11:03 | TrackBack(0) | あ:心理学キーワード | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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