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2006年06月12日

[アパシー・シンドローム(apathy syndrome)と退却神経症],[進路選択の困難とフリーター・NEET・ひきこもり]

アパシー・シンドローム(apathy syndrome)と退却神経症

アパシー(apathy)とは、アイデンティティ拡散状態と深い関係がある『無気力・無感動・無関心・無快楽(アンヘドニア)』を主要な特徴(精神的態度)とする症候群のことである。

一番初めにアパシー概念を精神医学領域に持ち込んだのは、ハーバード大学の精神科医R.H.ウォルターズ(R.H.Walters)である。アパシーの原義は、ギリシア語の“apatheia(アパテイア)”である。アパテイアとは、物理的な快楽に否定的な禁欲主義を説くストア派で使われた用語で、世界の根本原理を観照(テオリア)する平静な精神状態のことを意味した。日本語訳では『意欲減退症候群』と呼ばれることもある。うつ病による抑うつ感や億劫感、憂鬱感、無気力といった精神症状を精神運動抑制というが、アパシーの無関心や無気力はうつ病の抑うつ感ほど重篤なものではない。

また、アパシーそのものが精神医学的に診断される精神疾患という訳ではないが、アパシーの心理状態が慢性化して遷延した場合には神経症水準の不適応症状を示す場合がある。精神科医の笠原嘉(かさはらよみし)が定義した『退却神経症』という社会不適応の病態は、仕事や学業に対して無関心や無気力を示すアパシーの基本症状に類似している。

一般的に、アパシー・シンドローム(意欲減退症候群)は、スチューデント・アパシー(学生の無気力症候群)という心理臨床領域の用語があるように、10代後半(ハイティーン世代)の青年期に発症しやすい抑制的な精神状態である。

アパシーに類似した精神症状を発現する精神病の症状として、顕著な無気力や意欲減退を示すうつ病の精神運動抑制がある。更に、他人(人間関係)や社会への興味を全て失い、感情体験が麻痺してしまう統合失調症の陰性症状も、無気力を主訴とするアパシーに似た部分がある。しかし、多くの青年期にある人たちが経験するアパシーは、統合失調症やうつ病といった深刻度の高い精神病症状とは異なる。

その為、本人も周囲の家族・友人も、殊更に精神の異常性や病理性を気にする態度は控えたほうが良く、アパシーには不必要な薬物療法を受けるリスクも低くなる。青年期に発症するアパシー・シンドロームの主要な障害は『アイデンティティ確立の遷延(モラトリアム)による空虚感・不安定感』であり、アパシーを克服する為の中心的課題は『心理社会的自立につながるアイデンティティの獲得』となる。

社会環境の中で自分が担うべき役割や仕事(学問)とは何なのかを逃避することなく考えることが大切であり、自分が出来そうな小さな目標から実現の為の努力を続けていくことが重要になってくる。アパシーとは、人間が他者と一緒に社会生活を営んでいく上で、直面せざるを得ない『本業(仕事・学業・職業)に対する不安・迷い・後悔』が非常に強くなっている状態であり、逃避・否認・抑圧・退行といった精神分析的な防衛機制が極端に強く働いている状態でもある。

『アパシーの無気力・無関心』『精神病の精神機能の異常』の違いは、アパシーは本業(社会的な義務と関係する職業活動や学業行為)に対する意欲や興味を失う『部分的な選択的退却』を示し、統合失調症の陰性症状などの精神病は、本業も趣味も遊びも含めてあらゆる事柄に対する欲求や意欲を失う『非選択的な全面的退却』を示すということである。うつ病特有の精神症状である『興味や喜びの喪失』は、『何もしたいと思わないし、何をしても今までのような喜びや面白さが感じられない』という主訴に象徴される全面的な喜びや楽しみの喪失症状である。

また、うつ病の精神症状の場合には、主観的な苦悩や問題意識の強度が非常に強いが、アパシーの無気力や無感動の場合には本人の主観的な苦悩が麻痺していたり、自分の置かれている現状の問題点が明確に意識されていないままに非社会的な状況が長期化することが多い。アパシーが長期化したひきこもりの症例などでは、『漠然とした不安感はあるが、何となく社会的な活動や友達との人間関係から遠ざかってしまい、気が付けば数年の月日があっという間に過ぎていた。就職活動をやらなければならないと思いながらも、テレビを見たり読書をしている内にいつの間にか一日が終わってしまう毎日が続いていてそこから抜け出せない』という時間感覚の麻痺や将来展望の狭まりが見られる。

重症度の高いアパシー・シンドローム(意欲減退症候群)の場合には、社会環境への不適応を生む神経症水準の症状を示すことがあるが、基本的に、精神機能の正常性(現実検討能力・感情制御能力)は維持されていて、表面的な無関心・無気力の背後に『将来への不安・現状への不満・愛情ある人間関係の欲求』といった心理が隠蔽されている。

アパシーは、各種精神疾患の徴候や症状として現れる場合もあるが、一般的な理解としては、ひきこもりやモラトリアム、アイデンティティ拡散といった『青年期のアイデンティティ確立の挫折・失敗による不適応』として認識することが必要であろう。アパシー特有の問題とは、自分の人生をどのような社会的アイデンティティを持って生きていくのか、自分の理想とする職業活動と現実が押し付けてくる仕事内容の落差をどのような行動で埋め合わせていけるのかという問題である。

私たちは、他者と相互にコミュニケーションを取りながら社会領域で生活していかなければならないし、自分らしい魅力的な人生を模索しながらも現実社会へ適応する為の実際的な努力を継続していかなければならないのである。アパシーの問題の本質は、『青年期のモラトリアム(心理社会的なアイデンティティ確立に対する猶予期間)の際限のない遷延(長期化)』であり、現代社会のフリーター増加現象や無業者(NEET)やひきこもりの就労意欲・社会参加欲求の減退などとも密接な関係があると考えられる。



posted by ESDV Words Labo at 20:42 | TrackBack(0) | あ:心理学キーワード | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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