交流分析の発達サイクル(developmental cycles)とP.レヴィンの発達論
エリック・バーンが開発した交流分析には、人間の精神発達プロセスについて『自由な子ども(FC)の自我状態→適応的な子ども(AC)の自我状態→大人(A)の自我状態→親(P)の自我状態』という発達理論の仮定がある。これは自由奔放で率直に自分の感情や欲求を表現して他者・社会に制約されない“FC”が、親のしつけや先生の教育を受けたり社会的な集団生活の経験をすることで“AC”の自我状態を発達させていくという前提に基づいた発達観である。
精神分析の無意識的本能(動物的本能)である“エス(イド)”に対応するものとして、交流分析の“FC(自由な子ども)”を捉えるのであれば、エスが社会化されて抑圧されていくように、FCもしつけ・教育・社会制度によって社会化されてACに変質していきやすくなるのである。その後、客観的な認識や現実的な利害計算、科学的な世界認識をするための“A(大人)”の自我状態が発達してきて、CPの厳しい倫理観・善悪判断とFCの自由な欲求・感情表現とのバランスを取るようになっていく。
“CP(批判的な親)”や“NP(擁護的な親)”の自我状態は、自分の親の養育態度や価値観を取り込むような形で発達していくことが多く、親が厳格で義務や倫理を強調するような育て方をしていると“CP”が強くなりやすく、親が寛容で個人の自由や優しさを強調するような育て方をしていると“NP”が強くなりやすい。CPの強さはフォーマルな集団適応や経済生活に役立つことが多く、NPの強さはプライベートな人間関係や家庭生活に役立つことが多いので、双方のバランスの取れた精神発達が最も望ましいが、実際にはどちらかの親(P)の自我状態が強くなってしまうことのほうが多くそれがその人の性格の特徴になっている。
1984年に『成長のサイクル』の論文でエリック・バーン記念科学賞を受賞したP.レヴィン(P.Levin)は、相手の存在を認める感情的刺激である“ストローク(stroke)”を受け取ることによって、健全で安定した精神発達と潜在的な能力の開発が進んでいくという仮説を発表した。P.レヴィンが仮定した各発達段階における潜在的能力と自我状態は、以下のようなものとして整理されている。更に、P.レヴィンは人間の精神発達を『循環的発達』として考えており、青年期以降にもさまざまなストレスやイベント(出来事)、他者と出会うことによって、過去の発達段階を再び繰り返すような発達の仕方が見られるとしていた。
0歳〜6ヶ月頃……ただ存在するという能力。子ども(C)の中の子どもの自我状態。
6ヶ月〜18ヶ月頃……行う能力。子ども(C)の中の大人の自我状態(小さな教授と呼ばれる自我状態)。
18ヶ月〜3歳頃……考える能力。大人(A)の自我状態。
3歳〜6歳頃……自分が誰なのか(自我の芽生え)を知る能力。子ども(C)の中の親の自我状態。
6歳〜12歳頃……自分の方法で物事を上手く行っていく能力。親(P)の自我状態。
13歳〜18歳頃……新たなものを生み出していく生産的能力。自我状態の機能的な統合。
19歳以上の年齢段階……すべての能力を組み合わせて臨機応変に行使する能力。自我状態の人格的かつ機能的な統合。