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2011年06月16日

[反精神医学(anti-psychiatry)]

反精神医学(anti-psychiatry)

反精神医学(anti-psychiatry)とは、標準的な科学的精神医学をベースとした薬物治療や閉鎖病棟(患者の処遇)、精神病理学に反対する思想潮流であり、現在の先進国の精神医療分野ではほとんどその影響力を失っているが、1960年代の欧米社会において非常に強いインパクトをもたらした考え方である。反精神医学というネーミングは、イギリスの精神科医デイビッド・クーパー(D.G.Cooper)が命名したものである。

このブログでは、[反精神医学(anti-psychiatry)とR.D.レイン]という記事で、反精神医学の思想やムーブメントの概略を解説しているが、反精神医学の内容を理解する上で重要になる著作としてR.D.レインの『レイン・わが半生』がある。反精神医学では、精神病者を『異常・狂気・病気』として審判的な判断を行い、それ以外の精神疾患を持っていない人を『正常・正気・健康』とするような二元論的な価値観を真正面から否定している。

反精神医学は、更に『治療する医師‐治療される患者』という臨床医学の権威的な役割図式そのものを否定し、医師と患者が『ありのままのひとりの人間』として向き合い理解し合うことによって、患者の症状や適応が改善しやすくなると主張した。精神の正常性と異常性の境界線ははっきりと区切られているわけではなく、現時点において正常圏にいると思っている人も、何らかの環境要因や遺伝要因、ストレスの蓄積によっていつ異常圏に移行するか分からないという人間観がそこにはある。

R.D.レインとD.G.クーパーは1965年4月に、反精神医学の理念に則った理想的な治療環境を築くため、共同宿泊施設の『キングスレイ・ホール』をロンドンに開設したが、それは入院病棟ではなく医師・看護師・患者が一体となって、フラット(対等)な立場で対話療法を実施していく宿泊施設だった。反精神医学は『閉鎖病棟・薬物療法・精神外科や電気ショック療法・医師の権威的指示(病棟ヒエラルキー)』などに反対のスタンスを示しており、患者に自由と選択肢を与えてやりたいことをさせながら、医師はできるだけ患者の内的世界や心的外傷の共感的な傾聴に努めることになった。

精神医学的な治療では科学的・統計的な根拠と系統的なアセスメントに基づく『病名診断+薬物療法』が実施されるが、R.D.レインの反精神医学はヒューマニスティックな人間観に基づいて、『精神病を規定する社会的・政治的な要因や事情』を排除しようとしたのである。レインは医師が患者に特定の病名をつけて処遇することを『ラベリング(レッテル貼り)』として批判的に捉えたが、薬物や行動管理を用いない反精神医学の治療法では十分な実績を上げることはできず、その位置づけはヒューマニスティック(人間主義的)な心理臨床の試行錯誤に留まることになった。

ただし、『精神病理の世界や心理の了解可能性(異常な精神にも一定の論理や物語性があること)』を果敢な医療(共同生活)への取り組みで示したことで、精神病のケースに対するカウンセリング・心理療法の応用性が高まった恩恵はあるかもしれない。

posted by ESDV Words Labo at 21:03 | TrackBack(0) | は:心理学キーワード | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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