犯罪心理学(criminal psychology)
犯罪心理学(criminal psychology)とは、犯罪者の特性(発達・背景・心理)や犯罪行動に関する心理・環境の要因を研究する応用心理学であり、生得的犯罪者説を提起したイタリアの精神科医チェザーレ・ロンブローゾに始まるとされている。ロンブローゾは将来犯罪者になりやすい人物には、生得的・遺伝的な身体特徴があり、それは進化論的な退行性(類人猿・サルとの近似性)を意味しているという独特な『遺伝子決定論』の仮説を唱えたのだが、当然ながら現在ではこの犯罪人類学と呼ばれる仮設は科学的に否定されている。
犯罪心理学の目的は、犯罪事象を発生させる犯罪者の特性・傾向を分析し、犯罪の社会的・環境的要因を調査することで、犯罪発生のメカニズムを解明することである。更に、犯罪の背景・原因・動機・心理状態などの研究成果を応用することによって、『犯罪予防・犯罪捜査・犯罪者の更生』に貢献することが目的となっている。犯罪心理学の周辺領域には、犯罪精神医学や犯罪社会学、刑事政策などがあるが、それらの学問は全て『犯罪学』の下位分野とされる。
犯罪精神医学というのは、法廷で被告が犯罪に至った精神的事由を解明することを目指す医学分野であり、鑑定医が『心神喪失・心神耗弱』など責任能力の有無を考察して判断する精神鑑定領域を含んでいる。犯罪精神医学は、犯罪にいたる原因を科学的・統計的に明らかにする『犯罪生物学』と、犯罪を犯した被告に刑事罰を科せる精神状態(理非弁別能力)があったかいなかの責任能力を判断する『司法精神医学』から構成されている。
犯罪とは何かという定義は、『法律(特に刑法)に違反して犯罪の構成要件を満たす行為』が犯罪であると定義されるが、一般的な感覚としては『他者の生命・権利・財産を不当に侵害したり著しい迷惑を掛ける行為』が犯罪であるという風に考えられている。
狭義の犯罪とは、刑法の法規範に違反する行為であり、広義の犯罪とは、他者の基本的人権を侵害したり著しい被害・迷惑を与えるような行為のことを指している。犯罪は人道や道理に反していて、社会全体の安全や利益、秩序を損ねることになるので、どの政治体制や社会でも犯罪を減少させるための政治的・学術的な方策が講じられており、犯罪心理学も犯罪を抑制したり減少させることを目的とする『学術的な方策』なのである。
犯罪心理学では、犯罪者の犯行心理や行動様式、価値判断の分析を行ったり、効果的な尋問技術を開発したりして犯罪捜査に貢献したり、被告の証言の真偽や目撃者の証言の信用性を確率的に判定することで刑事裁判の質の向上に貢献することも大きな課題になっている。収監された服役囚の矯正・更正(社会復帰のためのメンタルケア)を対話を通して促進していく『矯正カウンセリング』の分野も、犯罪心理学の各種の研究と相関している部分が少なくない。