イントラパーソナル(intrapersonal)とは、「個人内の・精神内界の」という意味であり、心理学では「個人間の・対人関係の」という意味を持つインターパーソナル(interpersonal)の対義語に当たる。
シグムンド・フロイトが創始してアンナ・フロイトへと継承されていく正統派の精神分析では、イントラパーソナルな自我構造(超自我・自我・エス)内部の葛藤が神経症の病因として重視される一方で、無意識に抑圧されたインターパーソナルな実際に起きた対人関係も考慮されていた。
20世紀初頭の精神分析研究において「インターパーソナルな対人関係における心的過程」と「イントラパーソナルな個人内部における心的過程」の二元論的な研究法のアイデアは既に生まれていたが、現在の一般心理学では外部から観察できないイントラパーソナル(個人の内面的)な部分よりも、行動次元の心的過程が注目されることが多い。
しかし、その一方で、臨床心理学で統計学的根拠がある認知療法や認知行動療法が隆盛し、認知科学や脳科学の影響を受けた認知心理学の影響力が大きくなっているように、「イントラパーソナルな心的過程」を外部世界をどのように認識して解釈するかの認知過程(内的な情報処理過程)と見なす心理学研究が発展している状況がある。
イントラパーソナルな領域の心的過程や心理状態は、外部にいる他者が客観的な観察を行うことが出来ないので、声のある無しを問わず「独言・独白(monologue)」の形態で自己認識されることが多い。反対に、インタパーソナルな領域の心的過程や心理状態は、外部にいる他者との相互的なコミュニケーション(対話・会話)や作用(影響力)として認識される。私達の精神生活は、自分自身の内面と向き合って思考・感情・知覚を確認するイントラパーソナルな領域と、他者と向かい合って会話や議論を行ったりするインターパーソナルな領域から成り立っている。
学校教育における統合教育(integration)
学校の指導要領で規程される教育課程において、二つ以上の教科科目を統合することをインテグレーション(integration, 統合教育)と呼ぶが、現在の教育分野でインテグレーション(統合教育)という場合には、一般児童と障害児童を同じ教室で教育する方法を指して言う場合が多くなっている。
知的発達障害やダウン症を持つ児童に専門的な技術や方法を用いて行う特殊学級教育と対置されるのが障害児を普通学級に参加させて行う統合教育(インテグレーション)であるが、障害の内容や程度、児童の健康状態に応じて統合教育が適している場合とそうでない場合がある。
特殊学級教育のメリットとして、児童の健康状態や障害による問題を的確に把握できる障害児教育の専任教諭がいること、児童の発達水準や知的能力にぴったりフィットした能力開発のための授業を工夫できることがあり、障害の程度が重篤な場合には特殊学級教育の必要性が生じてくる。現在では、知的障害によりLD(学習障害)の児童だけでなく、学級崩壊の原因となるような激しい多動や落ち着きのなさを見せる興奮しやすいADHD(注意欠陥多動性障害)、自閉症やアスペルガー症候群に代表される広汎性発達障害の児童の教育をどのような形で進めていくのかが問題となることが多くなっている。
しかし、インテグレーションと呼ばれる統合学級教育のメリットとして、普通学級の授業内容についていけなくても普通学級の友達と交流する機会が得られることは非常に大きいと考えられる。知的・身体的・情緒的な側面での障害を持つ子ども存在を日常生活の風景から隠蔽せずに、ごく当たり前の仲間として普通学級に迎え入れることは、普通学級で生活する子供達が成長した後に、障害者を同じ社会に生きる仲間として迎え入れる感情や価値観につながっていく可能性があるからである。
障害者と健常者が楽しく共同生活するための社会福祉の観点から考えると、統合教育の普及がノーマライゼーション(健常者と障害者が区別されない社会形成のための理念・運動)を推進していくという考え方をすることも出来る。