「エリック・バーンが開発した交流分析のインパス」の記事で交流分析におけるインパス概念とその原因について書いたが、フリッツ・パールズとローラ・パールズ夫妻が創始したゲシュタルト療法のパーソナリティ理論にも「インパス(impasse)」という概念がある。「今、ここでの気づき」を重視するゲシュタルト療法には、5つの層から構成されるパーソナリティ理論があるが、そのパーソナリティの階層の内容は以下のようなものになっている。
1.いんちきの層……社会的役割に従って取る対人関係パターンのことであり、世間体や常識によって規程される生活行動様式の層のことである。本当の自分の欲求の充足やありのままの感情の表現とは無縁のパーソナリティ領域であるが、人間が社会環境に適応していくためにはある程度「いんちきの層」で生きる必要がある。
2.恐怖の層……自分の率直な情動や本来の欲求に対して、精神分析の自我防衛機制である「抵抗」が働いている層である。社会常識や倫理規範を無視したありのままの内面心理に気づくことには、罪悪感や恥辱の感情がつきまといやすくそういった様々な恐怖から自分を防衛している層であるといえる。
3.インパスの層……いんちきの層で生きる人間が、ありのままの感情や欲求に気づいて「他者との真実の交流(純粋なエンカウンター)」をしようとするときに起こる精神的なパニック状態や膠着状態がこのインパスの層である。どのような手段や方法を採用しても、無力で無能な自分には、ありのままの欲求や感情を満たす他者との関係など持てないという考えがインパスの層である。インパスの層は、「問題解決できないパニック状態・どのような手段を採用しても事態が好転しない膠着状態」のことを意味している。
4.内発の層……自分のむき出しの感情を相手の率直な感情とぶつけ合うような真実の交際が出来ない段階の心理状態が「内発の層」であり、内発の層では自分自身を第三者的に観察しているという特徴がある。自分のことを「私」と認識できずに、「それ・あれ・これ」といった認識をしてしまい、自分の身体状態についても明確な自己認識をすることが出来ない。この段階で大切な他者との真実のふれあいをするためには、「あれ・これ・それ」といった第三者的視線を離脱して、自己を「私」と明瞭かつ適切に自覚し「今・ここ」を生きる決断をすることが必要になってくる。
5.爆発の層……「今・ここを生きる一人の自立した自己」を自覚して「今・ここを生きる他者」と率直かつ有意義なコミュニケーションを行える層であり、実存的な自己存在に対してありのままに受け容れられている状態である。自分のありのままの感情や欲求から逃げ出さずに、相手との感情的交流を楽しめる状態であり、社会的役割や常識に過度に束縛されていない自由な成熟した心境を意味している。
インパスは、社会的役割や世間体、義務意識に束縛されやすい神経症的パーソナリティの人が、ありのままの自分の感情や欲望を過剰抑圧することによって陥る「膠着状態・閉塞状態」のことである。ゲシュタルト療法の五層からなるパーソナリティ理論を参照すれば、「内発の層」から「爆発の層」に至る心的過程でインパスの問題や症状を克服することが可能となる。
インプット(input)
コンピューター工学では、入力装置を介して情報をコンピューターに入力することをインプットというが、コンピューターに限らず人間の脳器官を初めとする身体器官に対する情報や刺激の入力もインプットと呼ばれる。脳のニューラル・ネットワーク(神経細胞ニューロンによって構成される巨大ネットワーク)における神経細胞間のシナプス伝達も情報の入力(インプット)の一形態であり、この場合には生理的微弱電流(インパルス)によって情報伝達活動が行われていることになる。
脳はインパルスによる電気的情報伝達以外にも各種の生体ホルモン(神経伝達物質)による情報伝達活動を行っていて、脳内ではインプットされた情報の演算処理(思考・感情・認知過程)が行われている。コンピューター・生体・脳・機械などが入力(インプット)に反応して情報処理を行い、外部に出してくる結果としての出力をアウトプットという。