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2006年07月28日

[行動療法(曝露療法・エクスポージャー)の技法としてのインプロージョン療法(implosion therapy)とフラッディング法]

インプロージョン療法(implosion therapy)とエクスポージャー法(exposure)

行動療法で用いられる曝露療法(イメージ脱感作)の一技法が、インプロージョン療法(implosion therapy)である。インプロージョン療法と同じ曝露療法に分類される心理療法(行動療法)の技法としては、南アフリカの精神科医J.ウォルピが考案した系統的脱感作(systematic desensitization)フラッディング(flooding)などの不安や恐怖を感じる対象に曝露する技法がある。

不安・恐怖を感じる状況や対象に直接的に曝露させる技法を現実脱感作といい、不安・恐怖を感じる対象を想像してイメージ(表象)を形成する技法をイメージ脱感作というが、エクスポージャー法は一般的にイメージ脱感作として行われることが多い。不安や恐怖の感情を拮抗反応(反対感情)で抑制する「逆制止の原理」を用いたウォルピの系統的脱感作では、不安の強度を段階的に分類した「主観的不安単位(SUD, Subjective Unit of Distress)」を作成する。

その主観的不安単位(SUD)に従って、不安を感じる程度の弱い状況から曝露していき、段階的に強い不安対象や不安状況に耐えられるように経験的な練習を進めるのが系統的脱感作の技法である。ウォルピが開発した系統的脱感作は、恐怖症や不安障害、パニック障害の治療分野で大きな効果を上げたが、「短時間の段階的な曝露療法」というのが特徴である。

ウォルピは、不安刺激や恐怖対象にイメージや現実を通して直面させる前に、リラクセーション訓練を行ったが、これはウォルピが筋弛緩を不安・恐怖の拮抗反応であると考え筋肉をリラックスさせることで逆制止が起こると想定していたからである。ある感情と同時に体験できない感情反応・身体反応を引き起こすことを「逆制止」といい、不安感や恐怖感と拮抗する身体反応・感情反応を起こせば不安や恐怖を感じなくなる。

ウォルピが恐怖症やパニック障害(広場恐怖)、全般性不安障害、強迫性障害などの不安感や恐怖感を主訴とする精神疾患の治療に系統的脱感作を用いたのは、不安や恐怖に曝露することで不安・恐怖を感じる強さが弱くなり段階的に精神疾患が改善すると考えたからである。ウォルピが病的な不安感や恐怖感と拮抗して逆制止を引き起こすことが出来ると考えていた感情反応・身体反応には、「快楽的な性反応・賞賛や非難など強い自己主張・筋肉と精神を弛緩させるリラクセーション」がある。

つまり、性的に興奮していたり、相手に対して強い自己主張をしていたり、筋肉をリラックスさせている時には、恐怖感や不安感が逆制止されて恐怖・不安の情緒を感じることがなくなることを示している。

不快な感情反応を逆制止する拮抗反応(反対感情)をまとめると、「摂食行動・性的覚醒(性的快楽)・自己主張行動・睡眠・ユーモアやウィット・リラクセーション」などがある。これらの拮抗反応を見ると、本能的欲求を充足させているときには、逆制止と関連した生理学的過程が起こり不安や恐怖を感じにくくなることが分かる。

系統的脱感作では、不安感の弱い対象から始めて次第に強い不安を感じる対象へと曝露(経験)をしていくが、ショック療法的な曝露を行うインプロージョン療法(implosion therapy)では、いきなり最大の不安・恐怖を感じるイメージに直面させて脱感作しようとする技法である。系統的脱感作と比較した場合のインプロージョン療法の特徴は、「長時間の集中的な曝露療法」であることだが、インプロージョン療法の治療的有効性には十分なエビデンスが確立していないという問題が残されている。

非常に強い不安状況や恐怖対象に曝露していく行動療法という意味では、インプロージョン療法とフラッディングは類似しているが、インプロージョン療法のほうが最高に強いレベルの不安感や恐怖感を体験させることによって症状や反応を消去するという意図が強い特徴がある。フラッディングでは、イメージや現実状況で不安対象に曝露されるという状況そのものが重視され、長時間、不快な感情体験に不安低減行動を取らずに直面させられる。しかし、フラッディングはインプロージョン療法のように、最高限度のレベルの不安や恐怖を集中的に体験させるという意図を持った技法ではない。



posted by ESDV Words Labo at 01:41 | TrackBack(0) | い:心理学キーワード | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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