非指示的カウンセリング(non-directive counseling)・非指示的技法
カウンセリングの理論・技法には『指示的技法』と『非指示的技法』とがあり、クライエントに対して直接的な指示・助言・指導を与える権威的な方法をまとめて指示的技法と呼んでいる。“指示的技法・指示的カウンセリング”には、カウンセラー(心理療法家)のほうがクライエントよりも『クライエントの心理状態・悩みの要点と解決法』について良く知っているという前提があり、カウンセラーはクライエントの心理状態を改善したり問題状況を解決するためのアドバイスを与え、クライエントはそのアドバイスを実践していく流れになる。
指示的カウンセリングの欠点は、カウンセラーがクライエントの心理状態(苦悩の内容)を十分かつ適切に理解しているという保証がないまま、“臨床心理学・カウンセリング心理学・精神医学の専門知”に依拠した一方的なアドバイスや権威的指示に陥ってしまいやすいということだろう。指示的カウンセリングの傾向として、どうしても『言葉と言葉のやり取りのレベル』での相談になりやすいということがあるし、最終的には専門家であるカウンセラーが提示する『処方箋としてのアドバイス(助言)』を守るか守らないかという問題になってしまうことが多い。
指示的カウンセリングの限界は、そのまま臨床医学における『生活指導の限界』とも重なっている。糖分・脂質の多いものを食べ過ぎてはいけない(お酒を飲んではいけない)、毎日適度な運動をしなくてはならない、長期にわたって服薬しなければならないといった生活指導をきちんと守って実践できる患者は意外に少ないのである。
クライエントにできるだけ指示や指導を与えずに、共感的理解と受容を続けることで、クライエント自身の内面的な変化や自発的な判断・行動を期待するのが『非指示的カウンセリング(non-directive counseling)』である。非指示的カウンセリングを創始したのは、徹底的な傾聴や共感的理解を重視する来談者中心療法(クライエント中心療法)を考案したカール・ランサム・ロジャーズ(C.R.Rogers, 1902-1987)である。“カウンセリングの神様”と呼ばれたカール・ロジャーズが、非指示的カウンセリングである来談者中心療法を考案した背景には、人間には本性的に成長や回復、健康を志向する傾向が備わっていて自分でその傾向を促進できるという『自己理論(実現傾向)・有機体理論』があった。
カール・ロジャーズの非指示的カウンセリングは、日本には昭和20年代に友田不二男らによって紹介されることになり、その後は構造面接技法の認知行動療法が隆盛してくるまで、日本でも非指示的カウンセリングがカウンセリングの中心になっていた。非指示的カウンセリングの目的は『自己洞察による精神的な成長と人格的な変容』にあり、そのための手段として『傾聴・共感的理解・無条件の肯定的受容(積極的尊重)』を用い、クライエントの内面にある実現傾向を促進して自分自身の心理状態に新たな気づきを得させようとするのである。
非指示的カウンセリングでは、『言葉と言葉のやり取りのレベル』ではなく『こころとこころの向き合いのレベル(ありのままのクライエントが理解・受容される感覚)』で対話が進められていく。そして、問題に対する答えを専門的に処方するのではなく、クライエントのありのままの感情にレスポンス(応答)していくことで、人格的・肯定的な変容を引き起こそうとするのである。

