過去には、慢性アルコール中毒(アル中)と言われた病的なアルコールへの依存状態を『アルコール依存症(alcohol dependence)』という。アルコール依存症には、アルコールを摂取しないと何となく落ち着かないという軽度の症状、アルコールを摂取しないと手の振戦や発汗などの身体症状が出る中等度の症状、そして、臓器疾患による死亡リスクがある極めて重篤な症状の段階があるが、断酒時に、手・指の振るえが出たり痙攣が起こったりする身体依存が形成されている場合には、アルコール依存症に対する断酒薬(抗酒薬療法)や心理療法など早期治療が必要になってくる。
アルコール依存症は、一般的に『飲みたいという欲求を抑えられない』という精神依存が形成されて、それに続いて、『飲まないと体調が優れない。手や指が振るえて不快感がある。重症化して痙攣を起こしたり認知障害が起きてくる』という身体依存が形成される。
アルコールが手に入りやすいこともあり、比較的誰にでも発症する危険性のある病気であるが、重症化すると、精神病同等(アルコール精神病という)の深刻な幻覚や妄想に襲われて、最悪の場合には、多臓器不全などで死亡することがある危険な病気でもある。日本には医療機関や相談施設、アルコール依存症の自助会を訪れないアルコール依存症患者が数多く言われ、推定で300万人以上のアルコール依存症患者がいるのではないかと言われている。成人の男女の約3〜5%に発症すると言われている精神疾患(嗜癖・依存症)だが、ストレス耐性の弱い人や孤独感や抑うつ感を日常的に強く感じている人、人生全般に対して虚無感を感じている人が罹りやすい疾患である。また、アルコール依存症の特徴として『病識がない』ことが挙げられ、自分で自分が病気であることを認められない『否認の病気』とも言われる。
『自分はアル中ではないし、飲みたいから飲んでいるだけで止めようと思えばすぐに止められる』という口癖があるアルコール依存症患者は多いが、実際に、行動療法などを用いて酒量を減らす試みをしてみても、なかなか思い通りにアルコールの摂取を減らせず、『一定レベルまで減らしたと思ったら、また元のレベルの酒量に戻ってしまう』という感じで一進一退を繰り返すのが現実である。しかし、アルコール依存症は長期化すると、肝臓障害(肝臓ガン・肝硬変)、消化器障害(胃ガン・胃潰瘍・十二指腸潰瘍・大腸ガン)、糖尿病、心臓疾患、神経疾患、アルコール精神病などを引き起こす進行性の致命的疾患であり、患者の寿命を大きく縮ませる。アルコール依存症患者の平均寿命は、50歳代前半という統計結果が出ているので、周囲の家族や友人がアルコール摂取の異常に気づいたら早期に医療機関や専門相談機関に本人を連れて行ってあげることが大切である。
アルコール依存症に陥るきっかけは様々であるが、飲酒によってストレス解消をしたり嫌な出来事や不快な記憶を忘れようとする人が罹りやすい病気であり、『現実状況からの逃避欲求をアルコール摂取で代理満足させる』『耐え難い日常生活(職場や家庭)のストレスや虚しさを酒で緩和する』というのがアルコール依存症の主要な心理機序である。会社の行事や友人関係の付き合いで飲酒する機会が極端に多い人も、耐性が形成されて依存症になりやすくなる。前述したように、依存性の形成は『精神依存→耐性・依存性の強化→身体依存→禁断症状→休みなく飲み続ける飲酒行為の常態化』という形で進行し悪化していく。
また、アルコール依存症は自分自身の身体と精神を壊して寿命を短くするだけでなく、周囲の家族や同僚、友人にも迷惑を掛けたり危害を及ぼす可能性があるという点に注意が必要である。仕事の憂さ晴らしや家庭のストレス解消に、大量のアルコールを飲むような人は、大抵、アルコールが入ると普段より気が大きくなり他人に対して横柄で攻撃的な態度を取ったりする。その為、暴力事件を引き起こしたり、対人関係のトラブルに巻き込まれるリスクが高くなり、周囲の友人関係が壊れてしまいやすくなるし、暴行沙汰を起こせば社会的信頼まで失ってしまう羽目になる。
近年、飲酒運転、酒気帯び運転に対する罰則が強化されていて、飲酒運転は他人に危害を及ぼす極めて悪質な犯罪行為と見なされているので、アルコール依存症の人は車にまず乗れない状況に置かれることになるし、飲んで乗ってしまえば飲酒運転で免許取消や運転事故を起こして逮捕される可能性さえある。絶えずお酒を飲んでいなければならない状態になると、仕事に遅刻・早退する割合が多くなりやすい。職務に対する怠業が目立ってくると、職場から解雇されて失業の憂き目に遭い、酒びたりの毎日を送りますます荒んだ生活になってしまうことも少なくない。
アルコール依存症になると、酒代が相当な金額になってくるので、職業を失ってしまえば経済的破綻のリスクも背負い、社会的信用を更に失ってしまうことにもなる。また、アルコール依存症は重篤化すると、お酒を飲まずに生活すること自体が不可能になり生活が自堕落になるので、友人知人が離れていきやすくなるし、経済的破綻などの事態に陥ると家族からも訣別される恐れがある。完全に孤立状況に陥ると自暴自棄になり、ますますアルコールに逃げ道を求める悪循環にはまり込んでしまうのである。
アルコール依存症は、早期発見・早期治療が重要であるが、それと合わせて、家族や周囲の人たちの協力と思いやりがアルコール依存症患者の回復や断酒の道のりを早めてくれる。具体的な治療法としては、薬物療法や集団精神療法、セルフヘルプグループ(AAのような匿名自助グループなど)、入院療法、認知行動療法などがあるが、治療効果を高めて回復時期を早めるために一番大切なのは、本人の弛まない努力と最後まで見捨てずに見守ってくれる家族・友人の存在である。

