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2011年09月07日

[カール・ロジャーズの自己理論における防衛機制としての否認(denial)・歪曲(distortion)]

カール・ロジャーズの自己理論における防衛機制としての否認(denial)・歪曲(distortion)

[前回の記事]では、ジークムント・フロイトやアンナ・フロイトの精神分析における防衛機制としての否認(denial, disavowal)について解説した。ここではカウンセリング心理学の始祖であり、クライエント中心療法(来談者中心療法)を開発して普及させたカール・ロジャーズ(Carl Ransom Rogers, 1902-1987)の『自己理論(self theory)』を参照した否認の防衛機制を考えていく。

自己理論では人間は本来的に“成長・健康・回復・発展”を志向する『実現傾向』を持っているという有機体的人間観が前提になっており、カール・ロジャーズは“傾聴・共感的理解・無条件の肯定的受容・自己一致(純粋性)”の基本的要素を持つカウンセリングの人間関係によって、その実現傾向を促進して問題を解決できると考えていた。カール・ロジャーズのクライエント中心療法のカウンセリングは、非指示的技法の代表的なカウンセリングであり、カウンセラーの指示・指導によって問題を解決するのではなく、クライエントの心理的な成長や人格的な変容によって『問題解決ができる心理態勢』を作ろうとするのである。

C.ロジャーズが目指している適応的で成長力のある人間像は『十分に機能する人間』であり、そういった自分で自分の問題状況に上手く適応できる人間になるためには、カウンセラーもクライエントも『自己一致(self-congruence)』の状態にあることが必要になってくる。自己一致(self-congruence)というのは、自分で自分のことをどのように定義しているのかという『自己概念』と自分が実際にどのような状態にあるかという『実際の経験(自己経験)』とが一致している状態のことであり、人間は自己一致の状態にある時には内的葛藤や苦悩が少なくなり現実の生活環境・人間関係にも適応しやすくなるのである。

自己概念と実際の経験とが矛盾して食い違っている時には、『自己不一致』となり心理的な苦悩や環境不適応を感じやすくなるが、その時には自己イメージとしての自己概念を守ろうとして『否認・歪曲』の防衛機制が発動しやすくなるという。人間は基本的に過去から今までの経験・プライドによって形成されてきた『自己概念(自己像・自己イメージ)』を一貫して守ろうとする傾向を持っているが、自己概念と矛盾する出来事が起こったり不本意な経験をしてきた時には、その出来事(経験)を無かったものとして認識する『否認(denial)』の防衛機制が働きやすくなる。

あるいは、自己概念を崩さなくて済むように、実際に起こった出来事や経験を自分に都合良く解釈し直していく『歪曲(distortion)』の防衛機制が働くことになる。S.フロイトの精神分析では非常に多くの種類の防衛機制が想定されているが、C.ロジャーズのクライエント中心療法では『否認・歪曲』が主要な二つの防衛機制として定義されている。否認では『自分はそんなことをしていない・何が起こったのか覚えていない』といった発言が多くなり、歪曲では『それはこういう風に考えるべきである・こういった解釈のほうが正しいと思う(あなたの考え方は間違っている)』といった発言が増えてくる。

ロジャーズのいう歪曲の防衛機制は、精神分析では『合理化(rationalization)・知性化(intellectualization)』といった現実を自分の自己像や利益に合った形に解釈する防衛機制として整理されている。知性化と合理化は似ているが、知性化は合理化と比較すると『感情・欲望と距離を置いており現実認識能力が高い・一般的な説得力を持っていて知的解釈が昇華の役割を果たしている』といったところに違いがある。

posted by ESDV Words Labo at 11:03 | TrackBack(0) | ひ:心理学キーワード | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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