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2006年08月21日

[家族療法のシステムズ・アプローチと『あれも・これも』思考]

家族療法のシステムズ・アプローチと『あれも・これも』思考

十人十色の家族という集合体(システム)を対象としてアプローチする心理療法を家族療法というが、家族療法では家族成員が相互に作用し合っているという家族システムを前提として効果的な介入と援助を行っていく。家族内の人間関係の葛藤や対立によって生じる心理的問題は、家族の誰が悪いというように単一の原因を特定することが難しく、家族成員のそれぞれが問題を継続させるような行動や発言を取っていることが多い。

ベルタランフィの『一般システム理論』で示されるように、複数の家族成員(要素)が集まって共同生活を営む家族は一つのシステムであり、全体性から生み出される種々の問題を個別的な要素へと還元することは出来ない。家族療法には家族評価を重視するボーエンや戦略学派のヘイリー、構造学派のミニューチンなど様々な学派が存在しているが、問題を抱えた家族を見る時には『全体(家族の問題)は部分(成員)の集合以上のもの』であるという見方を採用する。『部分が相互作用した結果として全体の問題が形成される』のだから、精神症状や問題行動を発現している家族成員はIP(Identified Patient, 患者と見なされた者)に過ぎないのである。

極端に食欲が無くなったり、突然異常な食欲を見せたりする摂食障害を発症した長女がいるとして、摂食障害になった原因はその長女一人だけにあるのではないという基本的な見方をするのが家族療法である。もちろん、家族システム外部の要因も無視することは出来ず、大切な恋人から裏切られた恋愛関係の挫折や性関係への不安に根ざす成熟拒否の心理、女性性を受け容れたくない感情などが摂食障害の背景にあることもあるが、ここでは家族療法の典型的なモデルを上げて説明する。

長女の食欲を強く低下させるようなストレス状況や緊張関係が家庭内部にあると仮定できる場合には、その緊張や不安を生み出している原因が長男の家庭内暴力にあったり、両親の険悪な夫婦仲にあったりする。また、反対に、長女が拒食による体重減少や過食をした後の嘔吐を繰り返す状況を見た両親が『お前が悪いから娘がこんな大変な病気になってしまったのだ』といった形で激しい喧嘩を始めることもある。体調の悪い妹と仲の悪い両親のいる家庭の陰鬱な雰囲気の中で、フラストレーションを募らせた長男は家庭内暴力や非行行為に走ってしまうかもしれない。

家族療法では、『Aに問題や病気があるから、Aの行動や考え方を改めたり医学的な治療を受ければ問題が解決する』という原因と結果が一対一で対応する『直線的な因果律』を否定する。直線的な因果律の代わりに、『Aの行為がBに悪影響を与え、Bの行為がCに悪影響を与え、Cの行為が再びAの問題を悪化させ……』という『円環的な因果律』を採用する。『それぞれに問題を抱えていて、その問題が他の家族に影響を与え、その相互作用がぐるぐると回って悪循環を続けている』という円環的な因果律を前提として家族療法は行われる。具体的には、家族病理や家族の問題にはシステムズ・アプローチの技法を用いながら、個別的な『個人としての家族』ではなく『全体的な家族関係』に介入していくのである。

家族療法家が問題解決に役立たないと考える直線的な因果律は、『あの原因が正しいのか、この原因が正しいのか』というような性質を持つので『あれか・これか思考(either/or thinking)』と呼ばれることがある。反対に、家族療法家が家族システムの全体を調整して改善する際に役立つと考える円環的な因果律は、『あの原因も結果に影響しているが、この原因も結果に影響していて、それぞれの原因が相互に悪循環を支えている』という性質を持つので、『あれも・これも思考(both/and thinking)』と呼ぶ。

家族療法では、『あれか・これか思考(either/or thinking)』は家族同士の責任転嫁の応酬に終わりやすいので、『あれも・これも思考(both/and thinking)』を用いて家族一人一人が自分から行動や態度を変容させていかなければならないのである。



posted by ESDV Words Labo at 14:59 | TrackBack(0) | か:心理学キーワード | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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