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2006年08月25日

[暗示療法(Suggestion Therapy)・催眠療法(Hypnotherapy)の歴史的変遷:ナンシー学派とサルペトリエール学派による近代的な催眠の確立]

暗示療法(Suggestion Therapy)・催眠療法(Hypnotherapy)の歴史的変遷:ナンシー学派とサルペトリエール学派による近代的な催眠の確立

メスメルの弟子であったピュイセギュール侯爵(Amand-Marie-Jacques de Chastenet, Marquis de Puyse'qur, 1751-1825)は、科学的な催眠磁気の臨床研究によって、催眠トランス状態の発見に至り、ノーベル生理医学賞を受賞することとなる。ピュイセギュール以後、催眠は動物磁気のような物理的現象によって生じるものではなく、暗示や権威といった心理的変容によって生じるものだという認識が強まっていく。

クライエントの言語的教示に対する被暗示性を適切に利用して近代的な催眠の原形を提示したのは、ポルトガルの宗教家ファリア師であり、彼は催眠解除後にも継続する後催眠暗示の技法や知識も体得していたと言われる。ファリア師の基本的な理論と技法は、リエボーへと継承されていき、フランスのナンシー学派の標準的技法となった。

リエボー(Liebeault, Ambrose August ,1823-1904)は磁気術と呼ばれる独自の催眠療法を無料で行ってインチキ医師と軽蔑され一文無しになる苦渋を味わったが、当時の内科医学会の権威者であったベルネーム(Bernheim, Hippolyte-Marie, 1840-1919)にその催眠の有効性を認められ、一躍時代を代表する臨床医として名声と財務を回復した。リエボーやベルネームを中心とするナンシー学派と理論的対立を見せたのが、フランス神経医学界の最高権威であったジャン・マルタン・シャルコー(Jan- Martin Charcot ,1825-1893)であるが、シャルコーの圧倒的な医学的名声と政治的影響力によって、遂に、催眠療法は公的な医学会においてもその科学性や有効性が認められるようになってきた。

シャルコーは精神分析学の創始者であるシグムンド・フロイトの指導教官であったこともあり、フロイトは自由連想法や夢分析による精神分析を行う以前には、『カタルシスによる除反応』を目的とする催眠療法的な精神療法を実施していた。O・アンナ嬢が、エントツ掃除と呼んだブロイアーによる談話療法も、一種の催眠状態を利用したカタルシス療法であったといわれる。

現代的な催眠療法の研究者で最も大きな影響を与えた人物に、ミルトン・エリクソン(Milton Hyland Erickso, 1901-1980)がいるが、彼は催眠療法に関する実証的な事例研究を積み重ねて、催眠を科学のカテゴリーの学問へと発展させた。ミルトン・エリクソンは、『催眠の魔術師』と呼ばれるほどに自由自在で応用性の高い催眠誘導法を多数開発して、どんなクライエントに対しても短時間で変性意識状態に誘導することが出来たという。

無意識領域(潜在意識)の記憶や情動に働きかける心理療法の一つである催眠療法(hypnotherapy)は、クライエントの意識水準と現実感覚を低下させて暗示刺激を与えることによって、心理的な治療効果を得ようとするものである。催眠療法によって得られる効果としては、『心身のリラクセーション効果・抑圧された記憶や情動の想起・精神症状の緩和・悲観的な認知傾向の改善』などがある。ブライアン・L・ワイスが考案した前世療法や内面世界の子どものパーソナリティを癒すインナーチャイルド・ワークといったニューエイジ的な催眠療法の存在も知られている。

心身をリラックスさせる暗示的言語や暗示効果を強める身体動作(腕や脚を硬直させるカタレプシー)を用いて、変性意識状態(トランス状態)を作り出すことを催眠誘導(hypnotic induction method)という。催眠療法(hypnotherapy)とは、各種の暗示を与える有効な催眠誘導を用いて、『クライエントの精神障害・身体症状・記憶の抑圧』を軽減しリラクセーション効果を与えようとするものである。

比較的良く用いられる意識水準を低下させる為の催眠誘導法には、振り子法・体の動揺法・筋肉の弛緩(リラクセーション暗示)・筋肉の硬直(カタレプシー暗示)・知覚操作・観念運動暗示・記憶想起の教示・年齢退行の暗示などがある。具体的には、身体の動作や呼吸の速度を分かりやすく教示して、段階的に意識水準を低下させぼんやりとさせていく手法がとられることが多いが、催眠が深まってくると主体性や自発性が低下して発言も殆どなくなってくるという特徴がある。

催眠誘導法を体系化に整理した尺度としてアメリカの『スタンフォード標準尺度』や日本の成瀬悟策の『成瀬標準尺度』などがある。催眠は成人にも十分有効だが、催眠感受性の高い幼児や児童に対して最も高い効果が期待でき、夜尿症やチック、爪噛み、睡眠障害、不安障害、情緒不安定、うつ状態などへの適応性が高いので、試しに症状緩和のための催眠療法を行ってみる価値はあるだろう。



ラベル:心理療法
posted by ESDV Words Labo at 15:13 | TrackBack(0) | あ:心理学キーワード | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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